「メグロ」が小笠原諸島にしかいない意外な理由  鳥類学者・川上和人

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黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(3月22日放送)に鳥類学者の川上和人が出演。メグロが他の島に移動しない理由について語った。

「メグロ」が小笠原諸島にしかいない意外な理由  鳥類学者・川上和人

メグロ

黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。3月21日(月)~3月25日(金)のゲストは鳥類学者の川上和人。2日目は、メグロの特殊な性質について---

黒木)川上さんは小笠原諸島を中心に鳥の研究を続けていらっしゃるということです。とてもカラフルなシャツを着られていますが、意識されているのですか?

川上)これは単なる好みなのですが、鳥の調査をするときには、地味な服装で鳥を驚かさないようにするというのも1つの方法です。

黒木)そういうことも意識されるのですね。

川上)でも、鳥はとても目がいいですし、彼らを驚かさないように、鳥が先に私たちを見つけてくれるということも大切だと思っています。

黒木)なるほど。

川上)迷彩の服などを着て、目立たないように近付いて行って、近くまで行ったときに突然、気付くと、鳥は驚いてしまいます。でも目立つ服を着ていると、鳥は遠くにいる時点でこちらのことがわかるので、彼らは自分の距離感でいつでも逃げられるのです。

黒木)鳥は人間よりも多くの色が見えるのですか?

川上)鳥は我々には見ることができない紫外線を見ることができます。哺乳類は、実は他の動物よりも見えている色が少ないのです。

黒木)そうなのですね。

川上)爬虫類や魚類や鳥類の方がよく見えています。食べ物を探すために使っていると言われています。

黒木)猫や犬や牛などは見えている世界がモノクロなのですよね?

川上)哺乳類の仲間は1度、夜行性になったと言われています。夜は光がない世界なので、それで色が識別できなくなったと言われています。鳥は基本的には昼行性で進化して来ているので、そのおかげでいろいろなものが見えるのです。

「メグロ」が小笠原諸島にしかいない意外な理由  鳥類学者・川上和人

メグロ

黒木)その鳥類を研究するきっかけが小笠原諸島にしかいない「メグロ」という鳥なのですね。

川上)そうです。

黒木)母島にしかいないのですか?

川上)母島と、向島という小さな無人島と、妹島という島にもいます。大きな島は母島だけですね。

黒木)季節が変わっても移動しないのですよね?

川上)向島と妹島はすぐ近くの島なのですが、その間でも彼らは移動しません。血液を採ってDNAを調べたことがあるのですが、島の間でDNAの配列が違うことがわかりました。それでお互いに行き来がないということがわかったのです。

黒木)近くの島であっても移動しない。

川上)鳥は翼があるので、5キロぐらいであれば能力的には飛べるはずなのに、一切、飛んでいません。ですので、メグロがいる島はメグロでいっぱいになってしまい、縄張りが持てなくなったメグロは死んでしまうのです。その近くにはメグロがまったくいない島もあるので、もし海を越えて3キロ隣の島へ行けば、縄張りが持てて生き残ることができるはずなのですが、なぜかメグロはその距離を越えないで、メグロがギュウギュウの島だけで生活しています。

黒木)それはどうしてなのですか?

川上)1つは「島の生物だから」という理由があると思います。島は海に囲まれているので、普通は周りに島がないわけです。遠いところに飛んで行く性質を持った個体と飛ばない性質の個体がいた場合には、遠くまで行く個体は、他の島に辿り着かなければ、居場所がなくなって死んでしまいます。ところが、移動しない性質の個体は、生まれた場所で生きて行けばいいので、生き残りやすくなります。

黒木)移動しない鳥は。

川上)その性質が遺伝するとすれば、移動しない性質を持つ個体だけが、より生き残りやすくなると考えられます。

黒木)なるほど。存続するわけですね。

川上)遠いところに行きたい個体は子どもが残せなくなり、遠くまで行かない個体がたくさん子どもを残すようになると、「島」という環境のなかでは、移動しないほうが得になるため、そういう集団ができるのだと考えていいと思います。

黒木)そういう特色があるのですね。

川上)だから鳥と言っても飛ぶだけではなくて、「飛ばないという性質」もあるところが面白いところです。

「メグロ」が小笠原諸島にしかいない意外な理由  鳥類学者・川上和人

川上和人

川上和人(かわかみ・かずと)/ 森林総合研究所 鳥類学者

■1973年生まれ。東京大学農学部林学科卒、同大学院農学生命科学研究科中退。
■国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所チーム長。
■NHK子ども科学電話相談室では「バード川上」先生としても知られる。
■小笠原諸島にすむ鳥類の進化と保全に関する研究が専門。特に無人島での研究が得意。
■1年のおよそ4分の1を小笠原諸島で過ごす。
■2015年に希少な海鳥「オガサワラヒメミズナギドリ」の生きた個体を小笠原諸島で
発見。世界で初めて営巣も確認した。
■図鑑なども多数監修を務め、著書に『鳥類学者・無謀にも恐竜を語る』、『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』、監修に『鳥になるのはどんな感じ?〜見るだけでは物足りないあなたのための鳥類学入門』など多数出版。

番組情報

黒木瞳のあさナビ

毎週月曜〜金曜 6:41 - 6:47

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毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳

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