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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
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ジーンズ修理専門店「オワチ」店主・宮澤伸さんと、20歳のころに買った「リーバイス501」
2022年、春夏ファッションのビッグトレンドは「デニム」だそうです。今回はジーンズに穴が開いたり、破れたり、縫い目がほつれたりしたとき、愛着のあるジーンズを修理してくれるお店のお話です。
東急世田谷線「世田谷駅」から歩いて1~2分ほど。世田谷3丁目交差点の一角に、ジーンズ修理専門店「オワチ」があります。お店を営むのは、宮澤伸さん・51歳。長野県岡谷市出身で、仕出し料理屋さんの長男として生まれました。
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この秋で15周年を迎える「オワチ」
父親から「商売は苦労が多いから、勉強していい会社に勤めた方がいいぞ」と言われ、岡谷工業高校を卒業後に上京。情報処理の専門学校を経てコンピュータ会社に就職しますが、「この仕事は違うな」と感じ、2年で退職します。
「何に興味があって、何をやりたいんだ」と自問自答するうちに、頭に浮かんできたのがジーンズでした。「原宿や下北沢の古着屋さんで、ビンテージジーンズを探すのが楽しかった」と宮澤さんは振り返ります。
「憧れはリーバイス501で、お尻のポケットに『LeVI'S』の赤いタグ。『e』が小文字だと、60年代後半~70年代初期につくられたもので、これを見つけたとき、迷わず3万円で買ったんです。いまも大切な僕の宝物です」
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工業用ミシンが軽快に鳴り響く店内
アパレルの仕事に就きたいと思った宮澤さんは、ジーンズショップでアルバイトをしながら、夜間に服飾関係の専門学校へ通いました。
その後、宮澤さんは「サンプル縫製」の工房で職人として修業を積みます。サンプル縫製とは、商品になる前の洋服で、1着だけの見本のこと。これを縫い上げる職人になった宮澤さん。
なかにはステージ衣装の依頼もあって、超ビッグな海外アーティストがジャパンツアーを行った際、きらびやかな衣装の縫製にも関わりました。
師匠からもその腕を認められて、2000年に独立。工房の名前は、実家が代々名乗ってきた屋号「オワチ」にしました。
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お尻の穴が見事に元通り(左:修理前/右:修理後)
ところが、独立してしばらくすると、サンプル縫製の仕事が激減します。この業界にも中国製品が進出してきたのです。工業用ミシンが縫い上げる軽快な音が、工房から消えていきました。
「このままだと工房を畳むことになる……どうしたらいいんだ」
仕事がなく困り果てていた宮澤さんに、一本の電話がかかってきます。
「ジーンズの修理の仕事があるから、手伝ってくれないか?」
その電話は、かつてアルバイトをしていたジーンズショップの社長からでした。
「多分、社長は僕が困っているのを知って、仕事を回してくれたんです。ジーンズが好きでこの業界に入ったので、どんな仕事でも嬉しかったですね」
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この秋の15周年を記念してTシャツを販売
サンプル縫製から、ジーンズの修理に切り替えた宮澤さん。仕事の依頼は、お尻、股の間、膝など、いろいろな場所の破れを「元通りにして欲しい」という内容もあれば、「肌が見えないように自然なダメージに戻して欲しい」など、実にさまざまです。
ジーンズに愛着があるのは30代以降からで、なかにはまったく無名のボロボロになったジーンズを持ってきたお客さんもいました。
「これを直すと費用がかかるので『新しいものを買った方がいいですよ』と提案しても、『このジーンズは捨てられないから』と何度も直しに来られて、履き続けるお客さんもいらっしゃるんです」
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ジーンズソムリエにも認定されました
宮澤さんは、お客さんがどのように直したいのか、1つ1つ細かく聞いて、そのイメージ通りに直していきます。「あのお店はいろいろな修理をしてくれるし、綺麗に仕上げてくれるよ」と評判が口コミで広がり、いまでは月100本を超える修理の依頼があるそうです。
独立してこの秋で15周年。これまでに直したジーンズは、2万本近くになります。それだけジーンズに愛着を持ち、直しながら履き続ける人がいるのでしょう。
宮澤さんにとってジーンズは、「う~ん、相棒かな」と言います。20歳のころに買った「リーバイス501」は現在、お店に飾られて、まさに「相棒」のように宮澤さんの仕事を静かに見守っています。
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足踏みミシンがテーブル代わり
■デニムリペア「オワチ」
所在地:東京都世田谷区世田谷4-16-6
営業時間:11:00~19:00/(土日祝)11:00~18:00
定休日:木曜日
メール:owati0105@gmail.com
TEL:03-5477-3278
Facebook:https://www.facebook.com/denimrepairowati/