医師で医療ジャーナリストの森田豊氏が8月16日、ニッポン放送「モーニングライフアップ 今日の早起きドクター」に出演。認知症の早期の検査、治療の大切さについて解説した。
「自分は認知症ではない」と治療を受けたがらない母
飯田浩司アナウンサー)森田豊さんが出版された最新刊『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社刊)のなかから、認知症のお母さまと先生とのやりとりについて詳しく伺います。お母様に認知症の検査を勧めたけれど、頑なに拒否されてしまった。同じような問題をご家族で抱えていらっしゃる方も多いと思うのですが。
森田)母の場合、いざ認知症の検査をしようとすると、「私はそんな病気ではない」、「認知症になどなっているわけがない」と言い張るのです。ですから、検査が始まっても途中でやめて帰ってきてしまうことが何度もありました。
飯田)しかし、様子を見ていると、徐々に病気は進行していく。そうすると、いろいろな事件やトラブルに直面することがあると思いますが、先生も実際に……。
転機となった振り込め詐欺事件
森田)我が家で1つの起点となったのは、母が振り込め詐欺に遭ったことです。私になりすました人から自宅に電話があって、母は銀行の母の口座から200万円を犯人に振り込んでしまったのです。
飯田)200万円を。
森田)そのあと、母が家に戻ったのですが、再び犯人から400万円を振り込むように電話がありました。そこでまた銀行に行った母を、銀行員が不審だからということで止めたのです。
飯田)そこで止めてくれたから、被害がそこまでで済んだということですか?
森田)そうですね。母は「なぜ振り込んではいけないのか」と銀行員にも食ってかかっていました。我々が駆けつけても笑顔のままで、悪いことをしたとか、とんでもない事件に巻き込まれたという認識はまったくありませんでした。
新行市佳アナウンサー)騙されたという認識はなかった。
森田)そうなのです。我が家にとって、この振り込め詐欺事件が、家族が母の認知症と真剣に向かい合うきっかけとなったことは確かですね。
医者としてではなく、息子として認知症の検査を受けて欲しいと懇願 ~最初の異変から7年掛かってしまった
飯田)そこからご家族での話し合いにも変化が生じたわけですか?
森田)母が認知症の検査を拒み続けてきたことを、我々は認めてしまっていたのですが、それを深く反省するようになりました。そこで私が思いついたのは、医者として認知症になっているかも知れないから検査を受けてくれと言うのではなく、息子として頼んだらどうかと思ったのです。
飯田)医者としてではなく、息子として。
森田)「僕はお母さんが心配でたまらない。長生きして欲しいし、安心した生活を送って欲しい。このままだと、また同じ事件が起こるかも知れないから検査を受けて欲しい」とお願いしました。
新行)反応はいかがでしたか?
森田)私が、「母のことが心配でたまらないから検査を受けてくれ」と言ったことが響いてか、きちんと検査を受けてくれるようになりました。結局、認知症の検査である長谷川式検査法やMRIを撮って、認知症の診断を得ることができました。アリセプトという薬も処方できるようになりました。ただ、最初の異変から診断、治療に至るまでに7年間掛かってしまった。本当に情けない話です。
できるだけ早く診断し、治療を始める
飯田)家族や周りの人間から見て、早期発見、早期治療は難しい部分がありますか?
森田)認知症の発症の仕方はそれぞれなので、私の例がすべてではありません。あくまでも参考ですが、母の場合はとにかく進行がゆっくりだったということと、それほど人様に迷惑をかけることもありませんでした。また、母が辛いというものでもなかったので、ゆっくりと時間が過ぎていってしまいました。本来はもっと早く診断し、対策や治療を開始すべきだったと思っています。
番組情報
医師が週替わりで登場。
飯田浩司アナウンサーと新行市佳アナウンサーが、健康に関する疑問や予防法、症状、治療法などを聞きます