東海道新幹線の「駅弁」は、どの車窓で食べると最も美味しいのか?
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
20年あまりにわたって東海道新幹線の駅弁や車内販売を手掛けてきた「ジェイアール東海パッセンジャーズ」は、10月1日から東海キヨスクと合併して「JR東海リテイリング・プラス」となります。そのなかで、日本食堂をルーツに持つ伝統の駅弁も日々、リニューアルを受けながら進化を遂げています。そんな進化し続ける東海道新幹線で、駅弁を美味しくいただくことができるお薦めの車窓をトップに伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第45弾・ジェイアール東海パッセンジャーズ編(第6回/全6回)
東海道新幹線「のぞみ」が、浜名湖の湖畔を駆け抜けていきます。やはり、車窓に広がる景色が美しいのが、東海道新幹線のいいところ。東京タワー、西湘の海、富士山、茶畑、浜名湖、木曽三川、伊吹山、琵琶湖、東寺の五重塔。「日本らしさ」を感じさせる景色が2時間半にわたって、飽きることなくずっと続きます。最近は海外からの旅行者も戻って、駅弁をいただきながら、日本の旅を楽しむ外国人の方も増えていると言います。
ジェイアール東海パッセンジャーズが、創立20周年に合わせて2022年から立ち上げた「車窓食堂」というブランドのポスターを指差す松尾社長。「弊社の弁当を知って欲しいという意味を込めた新しいブランド」だと言います。このジェイアール東海パッセンジャーズは、10月1日から東海キヨスクと合併して「JR東海リテイリング・プラス」となり、松尾社長も新会社の副社長に就任します。新会社への意気込み、駅弁作りへの思いを伺いました。
●東海道新幹線の駅売店が変わる! 利用者にとってのメリットは?
―10月からは「JR東海リテイリング・プラス」となりますが、利用者にとっての「プラス」はどんなところですか?
松尾:お客様に“意外性”をお届けしたいと考えています。思った以上の「アレッ!」という驚きです。ワクワク感とか満足感のようなものですね。お店も「変わったなぁ」、駅弁も「美味しくなったなぁ」と感じられるようなものを作っていきたいです。この「いままでとは違う」と、感じていただけることが、お客様にとっての「プラス」になるかと思います。合併時点では、各売店はそのままですが、今後順次、一緒になっていきます。
―合併に向けた新たな取り組みは始まっていますか?
松尾:既に両社で商品を融通し合うことを始めています。新大阪駅の「デリカステーション」(デリカステーション新大阪上り13)では、キヨスクさんで扱っている土産物を置いています。弁当だけお求めになるお客様は少なく、飲み物や土産物も買いたいという方が多いです。そういうお客様が1つのお店で全部できることが、本当はいちばん望ましいのではないかと思います。ただ、店舗の立地も踏まえて、「お客様にとって何が必要なのか」という目線で取り組んでいきます。
●「長く愛される駅弁」を! そのために必要なことは?
―松尾社長にとって、「駅弁作り」でいちばん大事なことは何ですか?
松尾:大前提は「安全・安心」です。でも、それが「普通」だと思ったら大間違いです。これは鉄道の鉄則でもあります。この部分で少しでも手を抜くと、大惨事になってしまいます。私自身、鉄道に携わって35年ですが、そんなシーンをいくつも見てきました。この考え方は、食品、製造業、サービス業でも共通することだと思っています。加えて、「質と味」です。これなくしては、この事業は成立しません。
―松尾社長が就任して2年あまり、間もなく新会社も発足しますが、心がけていることはありますか?
松尾:社長就任に当たってJRの大先輩から2つ助言をいただきました。1つは「長く愛される弁当を作れ」ということ。そのためには小手先のことはやらないということ。もう1つは「(他社の)マネをしないということ」。人真似では、長く続く弁当はできないと言うんです。チャレンジはしますが、一旦作った弁当はしっかり残していきたい。お客様の声を活かして常にリニューアルはしながら、「弁当の原点は守る」というスタンスでやっていきます。
●東海道新幹線の車窓から、富士山・浜名湖を眺めて「駅弁」を!
―ロングセラー駅弁「深川めし」も、じつは、少しずつリニューアルしていますね。
松尾:JR東海グループには、「ジェイアール名古屋タカシマヤ」という百貨店があります。百貨店は厳しい時代ですが、毎年売り上げを更新しています。このお店の合言葉は、「エバーリニューアル」です。伸びた収益はどんどんリニューアルにつぎ込んで、さらに売り上げを伸ばすことを繰り返しています。弁当も同じで、長続きさせるためには、「日々の(細かい)リニューアル」で魅力を高めていくことが大事だと思っています。
―松尾社長お薦め、ジェイアール東海パッセンジャーズの駅弁を美味しくいただくことができる、東海道新幹線の車窓は?
松尾:D・E席は三島~新富士間です。富士山を見ながら駅弁をいただくのは至福のひとときです。A席は浜松~豊橋間です。浜名湖に架かる大橋を眺めて召し上がっていただけます。(混雑のピークをずらせば)自由席などで海側、山側を行ったり来たりしながらご乗車いただけます。また、往復で新幹線をご利用になるお客様は、富士山が見えやすい朝の列車は山側を、浜名湖の夕日が美しい夕方の列車は海側を選んで、ご乗車になるのがお薦めです。
東海道新幹線が走る東京・名古屋・大阪の3つの拠点があり、会社名でご当地性をアピールできないことから、新幹線で駅弁をいただくイメージから作られた新しいブランド「車窓食堂」。おなじみの「特製幕之内御膳」(1500円)にも、車窓食堂のマークが入っています。10月から新しい会社に変わることで、この「車窓食堂」というブランド名もいままで以上に、存在感を増すことでしょう。
【おしながき】
・白飯 飛騨牛うま煮 錦糸玉子
・深川めし あさり煮 あおさ
・梅ちりめんご飯
・銀鮭塩焼き
・玉子焼き
・れんこん酢漬け
・味噌カツ
・海老フライソース漬け
・鶏肉煮
・煮物(人参、椎茸、こんにゃく、がんもどき)
・大根の田楽 パプリカ醤油漬け
・煮物(南瓜、さつま揚げ、高野豆腐)
・ニシン昆布巻き
・黒豆甘露煮
・揚げ粟麩煮
・切り干し大根
関東、東海、関西の味を一度に味わうことができる「特製幕之内御膳」。9つのマスに分かれており、人気の「東海道新幹線弁当」と同じように、沿線の味をたっぷり味わうことができます。10月31日までは、「のぞみ」「ひかり」の車内ワゴン販売でも取り扱いがあるこちらの駅弁。この秋、東海道新幹線でお出かけの際は、車窓を眺めながらいただいてみてはいかがでしょうか。
鉄道初期の構内営業は、駅弁や雑貨などを参入が認められた業者が販売していました。戦前、鉄道弘済会が発足して、雑貨などの販売が分離され、のちのキヨスクになります。もともとの構内営業者の多くは、いまの駅弁屋さんになっていきました。国鉄からJRになって、各社が自社ブランドを磨き上げていくなかで、再び駅弁と雑貨が1つの会社で扱うようになるのは、1つの原点回帰でもあります。ちなみに松尾社長曰く、「原点に対して真摯に向き合うのがJR東海イズム」とのこと。来年(2024)年10月で開業60周年を迎える東海道新幹線。技術が進歩しても青と白のカラーを守る新幹線電車のように、東海道新幹線の駅弁は、10月からも伝統を守りながら時代に合わせた進化を続けていくことでしょう。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/