【ライター望月の駅弁膝栗毛】
険しい上り勾配が続く、奥羽本線の板谷峠。
線路脇には、1,000mで36m登ることを示す「36パーミル」の表示がありました。
つまりは、1kmかけて12~3階建てのビルに登るような坂が、ずっと続くわけです。
そんな急坂なのに山形新幹線E3系は、お客さんをいっぱい乗せてグイグイと登っていきます。
ただ、見えてきた新幹線・・・フツーのE3系とは、ちょっとカラーリングが違いますね。
実はこの列車、週末を中心に運行される「とれいゆつばさ」号。
元々、秋田新幹線「こまち」だったE3系を改造して生まれた新幹線初の観光列車です。
スゴイのはなんと、山形寄り先頭車・16号車の車内に「足湯」があること!
足湯利用券(空きあれば、当日の車内購入可)を購入すると、利用することが出来ます。
全車指定席ですが、普通の山形新幹線「つばさ」と同じ料金で乗れるおトクな列車です。
山形新幹線は、かつて“温泉新幹線”というキャッチコピーが作られたこともあるほど、温泉の多い地域を走り抜けていきます。
米沢もまた、板谷峠周辺をはじめ、「米沢八湯」と呼ばれる温泉が点在する湯の町です。
今回は、程よい大きさの温泉街がある「小野川温泉」へ・・・。
米沢駅前からは「山交バス」の路線バスに揺られて、およそ25分で行くことが出来ます。
この日は、駅弁の食べ歩きを始めて間もない頃から、15年近くお世話になっている「うめや旅館」を久しぶりに訪ねました。
決して大きい宿ではありませんが、かけ流しの温泉はもちろん、2000年代前半から館内のフリーwi-fiが充実していたので、よく仕事を持って行ってたんですよね。
望月の“定宿”の1つでもあります。
「うめや旅館」のこだわりの1つは、昔ながらの小野川4号源泉のみを使っていること。
4号源泉は80.3℃、ph7.0、溶存物質総量5515mg/kg、泉質は含硫黄―ナトリウム・カルシウムー塩化物温泉です。
80℃と高温ですが、「うめや旅館」は水道水との熱交換システムによって温度を下げ、源泉を薄めることなく、とろんとした濃厚な成分のお湯がそのまま注がれています。
ちなみに交換された熱は、冬場の館内暖房やシャワーのお湯などに使用。
地球の恵みを無駄にせず、フルに活用したお湯づかいも好きなんです。
この高温の温泉を活かした小野川名物の1つが「ラジウム玉子」。
80℃という湯温は、いわゆる“温泉玉子”にはピッタリなんですよね。
小野川温泉の共同浴場の前などには、ラジウム玉子のための温泉升が設置されています。
常温で長期間保存できるのも特徴で、土産にもちょうどいいアイテムです。
温泉街は昔ながらの商店もあるので、まずはのんびり泊まって街歩きを楽しむのがお薦めです。
残念ながら今シーズンは稲刈りが行われましたが、夏~秋に楽しめるのが「田んぼアート」。
平成18(2006)年に、小野川温泉ゆかりの小野小町で始まりました。
その後、米沢ゆかりの直江兼続や前田慶次、上杉鷹山など、様々な人物が描かれてきましたが、今シーズンは、生誕450年を迎えた伊達政宗で作られました。
米沢は上杉氏のイメージが強いですが、実は伊達政宗が生まれたのは米沢城なんですよね!
さて、米沢の温泉宿に泊まれば、ほぼ楽しめるのが「米沢牛」!
やっぱり、米沢に来て「米沢牛」を食べないで帰るわけにはいかないでしょう。
それでも時間の都合でいただくチャンスが無かったという方・・・、最後まで諦めてはいけません。
「米沢牛」の駅弁という最後の“救いの手”があります。
今回は「新杵屋」のおなじみどまん中シリーズから「米沢牛焼肉どまん中」(1,600円)をご紹介!
「新杵屋」の焼肉駅弁も、もちろん米沢駅前で作られています。
ただ、肉の仕込みは、以前ご紹介した「牛肉どまん中」などが作られている製造ラインとは別の場所で行われていました。
1枚1枚に自家製焼肉だれの味をじっくりしみ込ませるよう、手作業で漬けこまれていきます。
改めて思うのは、「駅弁って、ホント手作業が多い!」ということです。
「どまん中」シリーズ定番、スリープ式の包装は、黒を基調としたモノ。
「米沢牛」が使われていることを示すステッカーも貼られていて、高級感が漂います。
蓋を開けると山形米「どまんなか」の上に、米沢牛の焼肉がすき間なく敷き詰められていました。
おかずは「どまん中(カレー)」と共通で、玉子に塩だれきんぴら、しば漬け。
タレも別添で付いていますね。
米沢牛の焼肉は、肉の隅々までしっかりタレがしみ込んだ濃いめの味わい。
どまん中シリーズの中でも、特に肉の存在感が際立つのは、さすが「米沢牛」ですね。
真ん中にちょこんと載った茎わさびがアクセントになってくれます。
せっかくご当地に立ち寄ったのだから、「ブランド」が欲しいという方は少なからずいる筈。
“たまには少しリッチなどまん中”、そんなニーズにこれからも応えてくれることでしょう。
新幹線に乗って、温泉に入り、米沢牛をいただけば、山形の旅の基本はコンプリート!
「とれいゆつばさ」の時間帯に当たれば、なおラッキー。
乗って楽しい、下りても楽しい山形新幹線の旅です。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/