【ライター望月の駅弁膝栗毛】
今年春、福島交通飯坂線「いい電」で走りはじめた「福島交通1000系」。
元々、東急東横線~日比谷線の直通列車で活躍していた東急1000系電車が、2~3両の短編成に改造されて、新たな活躍を始めています。
この改造車両のデザインを手がけたのが、東北を拠点に“描き鉄(かきてつ)”というジャンルで、活躍するデザイナーの小松大希さん(32)です。
前回に引き続き小松さんのインタビュー、今回は「後半」です。
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福島交通1000系
―小松さんは「福島交通1000系」のデザインに当たって、改造が行われた長津田の車両工場まで足を運んだそうですが、「改造車」ならではの苦労はあったんですか?
ボディや前面の形状は決まっていたので、独特なフェイスをいかに自分らしく、地域性を持たせてアレンジしていくかということを考えました。
元々、中間車両だった車両を改造したものなんですが、先頭車として違和感のないものに仕上げていくべく、このデザインこそ「腕の見せ所だ」と思って、検討を重ねていきました。
―東急1000系は今、全国各地で“第二の人生”を送りはじめていますが、他社で走っている改造車などを意識されましたか?
モデルケースとして見せてもらいましたが、参考にはしませんでした。
上田電鉄さんなどは観光列車向け(注)に作られていたので、「いい電」の路線風景には少し合わないかなと思っていましたので。
(注)上田電鉄別所線
長野県上田市の上田~別所温泉間を走るローカル私鉄。上田電鉄6000系も東急1000系の中間車を改造して生まれ、真田幸村ゆかりの地ということもあり、赤、六文銭を基調としたカラーリング。「さなだどりーむ号」の愛称で親しまれている。
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小松大希さん
―デザインでこだわったところは、どこですか?
3つあります。
1つ目は、ピーチをイメージした「桃色のライン」です。
福島市はやはり「桃」が名産なので、ゆずれない思いがありました。
当初はセピア色とシャンパンゴールドの2色で行こうという案もあったんですが、地域性は勿論、女性の方にも親しみを持ってもらいたいという思いもあって、可愛らしいピーチの色を入れました。
2つ目は、正面の上と下にあえてステンレス素地を出しました。
それというのも、遠目で見た時、ステンレスの色を活かした方が、セピアで一面塗ってしまうよりも、顔が引き締まるんです。
3つ目は、形式番号を表示する数字の「フォント」です。
元々は従来の車両同様、東急時代のものをそのまま使うことも考えられていたんですが、車両のイメージチェンジを図る上では、そのままではよくないだろうと。
いろんなフォントを試したんですが、しっくり来なかったので、乗務員さんの視認性なども考えて、私自身が“小松フォント”をデザインして使ってみました。
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小松大希さん
―走り出して半年あまり、反響はいかがですか?
営業初日、私も乗車したんですが、小さい子供たちが笑顔になってくれたのが嬉しかったですね。
そして女子高生たちも、「可愛らしい電車が来た!」といって、スマホで画像を撮ってくれました。
(福島交通・三浦部長から)
お客様からは(従来の車両と比べて新しくなったこともあって)「乗り心地が良くなった」というお声をたくさんいただきます。
加えて、車内環境がとてもよくなったということもよく聞きます。
特に福島は盆地ですので、夏場はすごく暑いんですよね。
これまで扇風機だけだった車両や、冷房はあっても老朽化で効きが悪い車両もあったんです。
乗務員からも、より運行に集中出来るようになったという声も上がってきています。
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福島交通1000系のヘッドマーク
―普段から「ヘッドマーク」のある普通列車というのも、面白いですね?
元々あった「いい電」というロゴマークを、私がコーディネートしてヘッドマークという形にしました。
かつて車体に付いていた東急のマークをヒントに楕円の比率を合わせて、斜め45度から見た時、一番キレイに映るようにこの形にしました。
鉄道車両を撮る場合、だいたい斜め前から全部の編成が入るように撮りますよね。
あと、正面に「直線」の作りが多かったので、楕円のヘッドマークがピンクのラインを隠すことで変化を持たせて、やわらかさのようなものを出してみました。
車両とのバランスを考えて作られたヘッドマークって、実はなかなか無いかもしれませんね!?
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車内は東急時代の面影を残しつつ、連結部分にも暖簾が設置された福島交通1000系
―今、鉄道車両の「デザイナー」ってイロイロ注目が集まってきていますが、小松さんが手掛けてみたいものはありますか?
子どもたちが「楽しめて学べる」車両を作りたいなと思います。
あと、なるべく無駄なくシンプルで、スタイリッシュなデザインをしていきたいと思います。
色遣いとか形とか、そういったものを工夫することで、オッと思わせるものを作ってみたいです。
私はまだまだ勉強中ですが、将来、乗った子供たちが夢を持ってもらえる車両を、いつか作れたらと思っています。
(小松大希さん、インタビュー終わり)
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福島交通・飯坂温泉駅
最近は「鉄道好き」も様々なジャンルが生まれていますが、鉄道好きが高じて「描き鉄」というジャンルを創造し、ついにはデザインも手掛けるようになった小松大希さん。
小松さんの1000系デザインにまつわるウラ話、そして「いい電」にかけるアツい思いが綴られた「福島交通1000系 Story Book~たからものが生まれるまで~」が600円で販売されています。
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福島交通1000系 Story Book
販売場所は、福島交通の福島駅、桜水駅、飯坂温泉駅の窓口。
福島交通1000系には、「鉄道好き」ならではの、様々な“思い”が込められています。
この1冊と共に、南東北の紅葉でも愛でながら、福島・飯坂温泉へぜひ足を伸ばしてみて下さい。
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おもてなし女子駅弁
列車のデザインに当たっては、女性を意識したという話もありましたが、実は福島県内の駅弁にも、女性を意識して、女性の手で考案されたものがあります。
それは郡山駅弁「福豆屋」による、「おもてなし女子駅弁」(1,100円)。
平成27(2015)年の観光キャンペーンを機に県中地方振興局とのコラボで誕生しました。
その後も、およそ半年に1回程度のペースでリニューアルされながら販売されています。
今回も秋の観光シーズンに合わせて発売され、ちょうど開催時期が重なった「駅弁味の陣2017」のエントリー駅弁の1つにもなりました。
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おもてなし女子駅弁
【お品書き】
1.あさか舞コシヒカリと麓山高原豚のみそそぼろ(郡山市)
2.三春三角油揚の含め煮(三春町)
3.ハム工房都路のソーセージ(田村市)
4.福島県産牛とゴボウのしぐれ煮(鏡石町)
5.天栄米(天栄村)
6.えび芋の素揚げとおのっこ一笑漬け(小野町)
7.しめじご飯ときゃらぶき(玉川村)
8.鶏肉のハバネロ味噌焼き(平田村)
9.玉こんのピリ辛煮(古殿町)
10.だし巻き玉子(浅川町)
11.生きんつば(須賀川市)
12.大野農園のりんごのコンポート(石川町)
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おもてなし女子駅弁
駅弁のキャッチフレーズは、「食べる観光パンフレット」。
12に小分けされたマスには、郡山をはじめとした福島県の県中地方にある「12市町村」の食材が詰まっていて、女性向けの旅行ガイド風のお品書きには、食材の薀蓄や周辺の案内も・・・。
たぶん、日本一「お品書きが充実した」駅弁ではないかと思います。
勿論、充実の中味で「ホントにいいものをチョットだけ」という、女性の願いをそのまま叶えた感じ。
今回は玉川村の食材をしめじご飯にするなど、季節感あるリニューアルも行われました。
福島を旅した女性はもちろん、男性も福島のことをより詳しく知ることが出来て、ちょっぴり幸福な気分になれる駅弁。
今季は11月いっぱいまでの販売予定だということです。
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/