【ライター望月の駅弁膝栗毛】
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キハ183系・ノースレインボーエクスプレス、宗谷本線・天塩中川駅
北海道庁主催の「北海道観光列車動向調査モニターツアー」。
筆者はその第1弾として10/28~29にかけて行われた「大地の恵み体感 1泊2日最北への旅路・宗谷本線」のBコース(行き・バス、帰り・列車)に参加してきました。
「前回」ご紹介した稚内~幌延間に続く今回は、「otocafe」というお洒落なカフェが駅舎に入っている天塩中川(てしお・なかがわ)駅から、音威子府(おといねっぷ)駅にかけてお届けしましょう。
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天塩川
利尻島やサロベツ湿原といったユニークな景色と変わって、宗谷本線の中部となるこの区間、車窓の友は「天塩川(てしおがわ)」となります。
天塩川は全長256km、日本で4番目に長い、最北の大河です。
北海道では珍しい南から北に向かって流れる川で、冬には凍結することでも有名。
ゆったりと流れる区間も長く、宗谷本線の車窓からは、しばしば水鏡が見られます。
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北海道命名之地
この天塩川沿い随一の見どころが、「北海道命名之地」。
幕末の探検家・松浦武四郎が幕末、この地で野営した際に、先住民の皆さんから教えてもらった言葉を元に、蝦夷地に代わる「北海道」という名前を考案したのだそう。
現在は、地元産トドマツを使い、北海道知事が揮毫した高さ5mの碑が建てられています。
宗谷本線からは天塩川の対岸に見ることが出来、今回はゆっくり徐行して通過しました。
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キハ183系・ノースレインボーエクスプレス、宗谷本線・筬島駅
今回のツアーで1つの目玉だったのが、音威子府村の無人駅・筬島(おさしま)駅に、ノースレインボーエクスプレスが「50分」の長時間停車を果たしたこと。
列車のすれ違いが出来ず、ホームの舗装もされていない駅に、特急としても走る5両の気動車が短いホームからはみ出して停まる様子は、極めて珍しい光景となりました。
列車本数の少なさを逆手にとれば、このような遊び心ある企画が出来るという訳なんですね。
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音威子府村の皆さんによる復刻駅弁の立ち売り
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音威子府村の皆さんによる復刻駅弁の立ち売り
実はこの筬島駅に、ちょっとしたサプライズが仕掛けられていました。
ツアーでは駅近くの「砂澤ビッキ記念館」の見学を・・・案内されていましたが、ホームに降り立てばなんと!立売りの方がいらっしゃるではありませんか!!
しかも、販売されていたのは、かつて音威子府駅の常盤軒が手掛けていた「いなりずし」!
国鉄の「いい日旅立ち」のロゴも見える掛け紙を復刻させた包装に思わず釘づけになりました。
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「復刻版 いなりずし」
「復刻版 いなりずし」(150円)は、音威子府村商工会女性部の皆さんが手掛けたもの。
平成初期まで駅弁を販売していた音威子府駅・常盤軒のご主人の監修を受け、「これでよし!」と言われた味付けに仕上げたそうです。
シンプルな味わいながら、揚げとご飯がとてもマイルドな食感で、常盤軒のご主人の優しさと、音威子府のおかみさん達の愛情がいなりずしから伝わって来るようです。
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北海道で一番小さな村 到達証明書
地元の方によりますと、実は4年ほど前から、村で開かれるイベントなどの際に、音威子府駅の「いなりずし」を5個入りで復刻させていたのだそうです。
今回はツアー内で弁当が配られることから、小腹が空いた方向けに、2個入で復刻させた上で、掛け紙風の包装の裏に、「北海道で一番小さな村 到達証明書」を付けたとのこと。
常盤軒の味をリスペクトしながら、村の皆さんが復刻させているいなりずし・・・なんて村の皆さんに愛されている駅弁なんだろうと、ホントに嬉しくなりました。
ここまで地元の方に愛されている「いなりずし」だったら、もっと多くの方に食べていただきたい!
週末だけでもいいので・・・、定期的に販売してくれませんかね???
下り「宗谷」と上り4326D普通名寄行、音威子府~天塩中川間限定、全10個・売切御免とかで。
地元の方が今回みたいに、地元の誇る味を売ってくれるだけで、旅行者としては嬉しいんです。
その節には、ぜひ昔のデザインの掛け紙をかけて、5個入りの懐かしい折詰で・・・。
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音威子府そば試食ブース
筬島駅には、「音威子府そば」の試食ブースも設けられました。
音威子府そばもさることながら、私が注目したのは「音威子府そば試食コーナー」の字体。
国鉄風のいわゆる“すみ丸ゴシック”が用いられ、鉄道への愛に溢れていました。
音威子府は、長年、「鉄道の村」としてにぎわった所。
どんなに人口や列車本数が少なくても、鉄道への愛は今も受け継がれているのです。
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音威子府駅・常盤軒
筬島駅の試食ブースには、同じく国鉄風のすみ丸ゴシックで「もっと食べたい方は、音威子府駅の『常盤軒』をご利用ください」という案内も・・・。
ということで、再びノースレインボーエクスプレスに揺られて8分、音威子府駅にやって来ました。
宗谷本線を旅したら、音威子府駅のそばをいただかずには帰れないのです。
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天ぷらそば
音威子府そばの特徴は、何と言っても黒いそば!
そばの甘皮まで挽いているため、この色になり、独特の風味になるのだそう。
地元唯一の製麺屋さん「畠山製麺」による黒いそばを、80歳代のご主人が一生懸命腕を振るって、駅そばに仕上げていきます。
サクサクのかき揚げが載せられて、「天ぷらそば」(470円)の出来上がりです。
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天ぷらそば
先日伺った豊富の方が、「本気でそばを食べたい時は、音威子府まで1時間以上かけて行く」と話すくらい、北海道を代表する絶品のそば!
昆布と煮干しの出汁がきいたつゆの香りがたまりません。
ちなみに店のカウンターでは、そばと麺つゆも販売されていますが、この麺つゆは、丼で出されるつゆとは別のもの。
常盤軒のご主人の技が詰まったつゆは、音威子府の「駅そば」でしか味わえないのです。
音威子府駅・常盤軒の営業時間は、午前10時~午後3時半まで。(麺が無くなり次第終了)
なお、冬季(3月まで)の間は、通常の水曜日に加え、木曜日も休業となります。
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音威子府駅・天北線資料室
音威子府駅の一角には、「天北線資料室」があります。
天北線は、音威子府からオホーツク海側の浜頓別(はまとんべつ)などを経由して、宗谷本線の南稚内までを結んでいた路線で、JRになって間もなく、平成元(1989)年に廃止されました。
バスに転換された今も、宗谷本線の特急列車が遅れていると、「音威子府から天北線のバスをご利用の方はお知らせください」とアナウンスされ、列車との接続を取っているようです。
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音威子府村キャラクター・おとっきー
宗谷本線・天北線の分岐点にあって、「鉄道の村」として続いてきた音威子府。
それゆえに、音威子府駅ゆかりの「音威子府そば」や「いなりずし」の復刻にも、自然と力が入るのだと思います。
寒い時期こそ、雪道に慣れていない方にとっては、「鉄道の季節」!
東京からはるばる「黒いそばを食べに行く」だけの鉄道旅があったってイイと思いませんか?
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/