【ライター望月の駅弁膝栗毛】
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185系電車・特急「踊り子」、伊豆箱根鉄道駿豆線・三島二日町~大場間
東京から東海道線を下り、伊豆箱根鉄道駿豆線に入ってきた修善寺行の特急「踊り子」号。
定期列車は1日2往復、5両編成と短いせいか、知る人ぞ知る列車かもしれません。
でも、東京~修善寺間の直通列車は、東海道線が御殿場回りだった戦前からありました。
だからこそ、川端康成の「伊豆の踊子」は、天城が舞台になったとも云われます。
東京~修善寺間の「踊り子」号は、由緒ある“生粋の踊り子”号なのです。
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舞寿し・武士東勢さん
そんな修善寺にやって来た「踊り子」が、東京へ帰る時、駅弁が最もよく売れると話すのが、修善寺で駅弁を手掛けて40年以上、「舞寿し」の武士東勢(たけし・とうせい)さんです。
今週お届けしてきた「駅弁屋さんの厨房ですよ」の第10弾・舞寿し編はいよいよ本日完結!
メディアとのコラボレーション駅弁のウラ側と、今後の展望について伺いました。
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武士のわさびシャモ飯
―週末限定販売の「武士のわさびシャモ飯」(1,400円)という駅弁は、確かテレビ番組から生まれたんですよね?
テレビ朝日系列で放送された「地球号食堂」という番組から生まれました。
この前年(2009年)、京王百貨店の駅弁大会に初めて出させてもらいました。
そこで来年、もしも同じような話が来た場合に備えて、準備しておこうとなりました。
そんな矢先、番組の取材がありまして、ここでも「い寿司」の時のように「新作の予定はありますか?」と訊かれたので、準備していた弁当の話をしたのがきっかけです。
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武士のわさびシャモ飯
―かなりオープンに作られたんですね?
駅弁作りに悩んでいるところから「全部撮りたい」となりまして、スタッフの方が付きっきりで、「天城軍鶏」の店、山葵沢、椎茸の原木農家、松崎の桜葉の生産者さんにも伺いました。
今まで食材を仕入れてはいましたが、実際に作っている方のお顔を拝見することは無かったので、とてもいい機会になりました。
お陰で生産者の方の思いも受け止めて「お客さんが喜んでもらえるようなものにしなくては・・・」という気持ちが一層強いものになりました。
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武士のわさびシャモ飯
―シャモという食材ならではのご苦労はありますか?
シャモは温かい時はいいんですが、冷めた時に課題がありました。
よく「歯ごたえがいい」という表現をしますけど、やっぱり冷めると固くなってしまうんです。
そこで、いろいろ試行錯誤した末に、大根を摩り下ろした汁に漬けることにしました。
やっぱり、大根の分解酵素のチカラですよね。
ちなみに、マンゴーも肉が柔らかくなるといいますが、さすがに高くて使えないんです。
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武士のわさびシャモ飯
わさびの葉を食べて育った地鶏「天城軍鶏(あまぎしゃも)」が、軍鶏のがらスープで炊き込み、わさびの茎塩漬けが和えられたご飯の上にゴロっと載った土・休日限定販売駅弁。
おかずには、自家製わさび漬けと和えた椎茸、地元産の季節野菜の煮物も・・・。
軍鶏にはわさびはもちろん、舞寿しオリジナル醤油「アジの極(きわみ)」を付けて食べることが推奨されており、肉の固さは全くなく、軍鶏ならではの味わい深さがたっぷり!
また、この日の煮物に入っていた旬の筍は、実に「みるい」!
「みるい」は柔らかいを意味する静岡の方言で、幼い、未熟といったニュアンスを含みます。
筍がまだ地面に顔をのぞかせる前のやわらかさは、「みるい」という言葉がピッタリなんです。
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武士のわさびシャモ飯
―さあ、このシャモ飯やあじ寿司、やっぱり駿豆線でいただくのがいいんでしょうね?
駿豆線のボックスシート付の車両がお薦めです。
お薦めの車窓は、やっぱり田京~伊豆長岡間と、大場~三島二日町間の富士山でしょう。
―今後、力を入れていきたいことは?
実は新作があります。
ホントは去年出す予定だったんですが、もう箱も掛け紙もスタンバイしています。
オペレーションの工程が増えるので、そこをいかにしてクリアするかにかかっています。
アイディアマンはカミさんで、私はそこをどう実現していくか堅実に考えるほうなんです。
もちろん手作り・無添加、そして出来るだけ地元産食材にはこだわっていきたいですね。
(舞寿し・武士東勢さんインタビュー、おわり)
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185系電車・特急「踊り子」、伊豆箱根鉄道駿豆線・原木~韮山間
実は武士家の皆さん、元々が寿司屋さんなのに、魚があまり得意ではありません。
このため、桜の葉っぱやゴマ、生姜などで、生臭さを出来るだけ消し、あじ寿司のアジの骨も1本1本丁寧に取り除いているのだそうです。
「武士のあじ寿司」の美味しさは、作り手が入れ込み過ぎることなく、一歩引いたところから、食材と向き合えるがゆえの美味しさなのかもしれません。
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伊豆箱根鉄道3000系、駿豆線・韮山~伊豆長岡間
修善寺に行かないと買うことが出来ない「舞寿し」の駅弁(水曜日定休)。
通販も無く、大都市での販売もありませんが、「少数精鋭」の駅弁を販売しています。
さあ、アナタも桜葉の香りに誘われるように伊豆・修善寺へ・・・。
開業120周年の「伊豆箱根鉄道」駿豆線の旅を、修善寺駅「舞寿し」のこだわりの駅弁と共に楽しんでみてはいかがでしょうか?
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/