【ライター望月の駅弁膝栗毛】
平成9(1997)年のデビュー以来、既に20年を超えて活躍しているE2系新幹線。
東北新幹線では、東京~福島間で「つばさ」号と併結する仙台発着の「やまびこ」号を中心にお目にかかることが出来ます。
東京行の東北新幹線が仙台を出ると、どこからか紐を引っ張る音や、シューッと蒸気の音がして、程なく「牛たん」のいい匂いがしてきますよね。
そんな「牛たん」の駅弁を開発したのが、仙台駅弁の「株式会社こばやし」です。
駅弁屋さんの厨房にお邪魔して、トップの方にお話を伺っている「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第12弾は、仙台駅弁「こばやし」の小林蒼生代表取締役に登場いただいています。
今回は、仙台の「牛たん」駅弁の開発秘話をお届けいたしましょう。
―仙台の「牛たん」駅弁の元祖として知られる「こばやし」ですが、“仙台の牛たん”は、昔からあったんですよね?
私の小さい頃から、既に「牛たん」を食べる習慣がありました。
仙台には“太助”というお店(注)があって、狭いお店でオヤジさんが七輪で焼いていました。
当時は店で食べるより、焼いたものを持ち帰って、家でよく食べていたものです。
昔の「牛たん」は半端な肉という感じで、シチューなどの煮込み料理に使われる程度でした。
ですから、普通はタンを塩で焼くなんてことはまずありませんでしたし、それを弁当に入れようなんてことも、全く考えていなかったんです。(注)「太助」…仙台牛たん発祥の店とされる。
―「牛たん」を駅弁にしようと思ったきっかけは?
太助が牛たんの塩焼きと麦飯、テールスープを出す“レストラン”になっていくのを見ていて、仙台「牛たん」の認知度の高まりを感じていました。
そんなとき、ある勉強会で神戸の駅弁屋さん「淡路屋」(注)の社長さんとお会いする機会があり、発熱材に水をかけて温める「加熱式容器」というものを教えてもらいました。
程なく、いまのような「紐を引きぬいて温める」、使いやすい加熱式容器が開発されたことで、「これならイケるかもしれない!」と思うようになり、イロイロと実験を始めました。(注)「淡路屋」…神戸を拠点に京阪神地区で駅弁を販売する駅弁屋さん。加熱式駅弁の元祖として知られる。
―いままでにない食材だけに試行錯誤もあったでしょうね?
問題として立ちはだかったのが、「牛たんの厚さ」でした。
たんが厚いと、なかなか熱が通らないんです。
そこでいろいろ試していって出た結論が、3ミリの牛たんならイケるということで、当時としては画期的な「牛たん」の駅弁ができたんです。
お陰様で「独眼竜政宗瓣當」に次ぐ、ヒット商品となりました。―改めて「加熱式容器」というのは、画期的な存在だったんですね。
加熱式容器の場合、平らな所で紐を引っ張って、石灰と水を反応させないといけません。
少し傾けてやってしまうと、異常な発熱になってしまうことがあります。
そのため容器の下に、俗に“座布団”と呼んでいるシートを敷いたりする改良も加えました。
逆に「紐を引き抜く」ということが分からないお客さまもいて、「温まらないじゃないか!」というお叱りを受けることもありました。
ですから、いまでは包装に「加熱式容器」の説明も丁寧に書くようにしています。
(小林蒼生・株式会社こばやし代表取締役インタビュー、つづく)
【おしながき】
・麦飯(お米は宮城県産環境保全米ひとめぼれ使用)
・牛たん焼き
・花人参煮
・万来漬け(胡瓜、大根、人参、みょうが、菊、しその実)
・七味唐辛子
紐を引っ張って温め、ふたを開けると、湯気と共にいい香りが漂う、加熱式の牛たん駅弁。
元祖の系譜をいまに伝えるのが、「網焼き牛たん弁当」(1,050円)です。
加熱前の牛たんと比べても、牛たんがツヤツヤしていて、一層食欲をそそります。
ちなみに麦飯を使用していますが、より食べやすいように白米(ひとめぼれ)を多めに…。
次回、仙台の牛たん駅弁を、さらにディープに掘り下げます!
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/