【ライター望月の駅弁膝栗毛】
一ノ関から気仙沼・陸前高田を経て、三陸沿岸・大船渡市の盛を結ぶJR大船渡線。
現在は一ノ関~気仙沼間で、キハ100系気動車による列車が運行されています。
大船渡線は、陸中門崎(りくちゅう・かんざき)の先で弧を描いて北へ向かい、景勝地・猊鼻渓(げいびけい)などを経由して再び南へ戻り、気仙沼方面へ向かいます。
この線形を竜に見立て、大船渡線には“ドラゴンレール大船渡線”の愛称もあります。
東北本線から大船渡線が分岐する交通の要衝・一ノ関駅で120年以上、構内営業に携わっている駅弁屋さんが、「株式会社斎藤松月堂」です。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第13弾・齋藤賢社長のインタビュー。
今回は、一ノ関の肉駅弁について語っていただきました。
―一ノ関駅弁といえば、牛肉も定番ですよね?
一ノ関で牛めしを始めたのは、昭和40年代のことだと思います。
神戸の「肉めし」がヒントになりました。
神戸はサフラン風味のご飯でしたが、東北の牛めしということで白いご飯で…。
当時は牛肉も国産しかない時代でした。
時代が下って前沢牛がブランドになるなかで、「前沢牛めし」を名乗るようになりました。―いまでは「岩手牛めし」となっていますが、その理由は?
これは、単純に「表示」の問題です。
「前沢牛めし」とすると、全部「前沢牛」を使っていると誤解を招きやすいということで…。
現在は「前沢牛」はもちろん、岩手県産黒毛和牛を使っていますので「岩手牛めし」となりました。
―昔、ローストビーフバージョンもありましたよね?いまも前沢牛のローストビーフを使った駅弁は作っています。
ただ、衛生上の問題で、一関に来られた方や催事向けの駅弁となっています。
ローストビーフは、どうしてもピンクの見た目であったり、血がにじむこともあります。
これが衛生基準に抵触してしまうため、東京など遠隔地向けに作ることができません。
できるだけ美味しいものを提供したいですが、そこは安全であることが優先されます。―牛肉の調理法に、どんなこだわりがありますか?
駅弁の牛肉料理は、「調理が早い」ことが最優先されます。
衛生上の問題もありますが、生の状態から直火で焼いたりするのではなく、下ごしらえをした上で牛肉駅弁を作っていくことで、よりスピーディーな対応ができるようにしています。
じつは駅弁って、はるか昔から「効率性」を最重視して作って来た弁当だと思っています。注文が来て、パッと出せる弁当ですから。
―確かに、駅のそばにある駅弁屋さんだと、「○○分待てる? スグに出来ますから」と仰っていただけるお店が多いですね!意図的に効率化したのではなく、そうせざるを得ない環境にあったということですね。
列車の停車時間も限られていましたし、急なお客さまにも対応する必要がありました。
ご飯もできるだけ冷まし、蒸れないようにして、保存性を高めていました。
駅弁は“ほかほか”をウリにする弁当とは、全く違った進化を遂げた弁当なんです。
それが「駅弁マーク」を掲げる各社さんの誇りでもあると思います。―そのなかで、一関のブランド「門崎熟成肉」を使った「ひふみ弁当」もありますが…?
私が手掛けたのですが、じつはいま言ったことと“対極的”な作り方をしている駅弁です。
ものすごく手間をかけていて、作り手の皆さんにもかなり頑張ってもらっています。
ハンバーグは生のパテの状態で「格之進」さんから届いたものを、1つ1つオーブンで丁寧に焼き上げていきます。
また、牛すじ煮込みは、特別に圧力鍋を用意して煮込んでいます。
(齋藤賢社長インタビュー、つづく)
【おしながき】
・ご飯(岩手県産ひとめぼれ)
・門崎熟成肉の炙り焼き
・国産牛と白金豚のハンバーグ
・門崎熟成肉・牛すじ煮込み
・しめじとエリンギのソテー
・スナップエンドウ
・ラタトゥイユ
「ひふみ弁当」は、いまや東京でもすっかり有名店となった「格之進」の看板・門崎熟成肉を、斎藤松月堂十八番の“あぶり焼き”にしたトップコラボレーションの駅弁!
さらに、国産牛と岩手が誇るブランド豚・白金豚のハンバーグも美味!!
ついに実現したと言ってもいい“冷めても美味しい”ハンバーグなんです。
醤油と山椒で甘辛く煮込まれ、うま味が凝縮された牛すじ煮と合わせて、いろいろな肉の味が楽しめる無駄のない肉駅弁に、ファンが多いのも納得です。
門崎熟成肉を生産する「格之進」の総本店「丑舎格之進」は、一関市のなかでも大船渡線沿線・川崎町にあって、陸中門崎駅からクルマで10分ほどの所です。
大船渡線のディーゼルカーに揺られながら、車窓ののどかな田園風景のなかで育まれた話題の熟成肉を、駅弁でいただくのもまた味わい深いことでしょう。
次回もまだまだ、斎藤松月堂の駅弁作りの話、続きます。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/