【ライター望月の駅弁膝栗毛】
一ノ関駅を後に盛岡方面へ向かう、東北新幹線「はやぶさ」号。
多くの「はやぶさ」は仙台~盛岡間ノンストップで運行されていますが、朝夕中心に仙台以北が各駅停車となるタイプもあります。
いまのダイヤでは、一ノ関駅で「はやぶさ103号」盛岡行が4分停まる間に、後続の「はやぶさ5号」が追いぬくなど、はやぶさ同士の追い抜きが見られることもあります。
そんな一ノ関駅で120年以上にわたって、駅弁を手掛ける「斎藤松月堂」。
シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第13弾・齋藤賢社長のインタビュー。
今年、「斎藤松月堂」は初めて、フランスでの駅弁販売を実現しました。
10月30日から11月30日まで1か月にわたって、「NRE」「淡路屋」「花善」「大船軒」と共同で行ったパリ・リヨン駅での駅弁臨時販売について、より深く伺いました。
―今回、和牛ではなく、現地の「シャロレー牛」を使ったのはどうしてですか?
フランスにも和牛はあるのですが、あまりに高いので、現地のシャロレー牛を使いました。
赤身で歯ごたえのある独特の食感です。
最初は和牛炙り焼きと同じたれを使うことも考えましたが、肉との相性を考えて、シャロレー牛に合った独自のたれを作りました。
さらに焼き鳥、照り焼きが好きな皆さんに向けて、甘辛で少し濃いめの味付けにしました。―盛り付けにもこだわったそうですね?
一見、ただの「牛めし」なのですが、パプリカにアスパラガスを載せて、華やかにしました。
やっぱり、フランスでは「色」が大事なのです。
ですので、肉ですが“絵画”にしようと思って、アスパラを木に見立てて、その下に咲く花をイメージした盛り付けにしています。―ご飯との間に入っていた玉子が面白い食感だったのですが…?
ヨーロッパの方にとって、米は「サラダ」感覚なのです。
以前、NREさんが牛丼風の駅弁を販売したときには、お求めになったお客さまが、上の牛肉だけ召し上がって、残りは捨てられてしまった…なんて話もありました。
今回の駅弁ではご飯を捨てられないよう茶飯にした上で、オリジナルのたれをまぶして、上には玉子焼きのたまごを崩して載せ、「肉を食べながら馴染む味」を目指しました。
肉・玉子・ご飯を一緒に食べてもらえるようにした訳です。
―日本人は口中調味をしますけれど、海外の方はされませんから、調理の段階で「駅弁」を食べやすい状況を作ったという訳ですね?その通りで、フランス料理のコースがまさにそうですよね。
前菜、魚料理、肉料理と順番に出て、パンは出ますけれど、まず一緒には食べません。
(フランスで売る)「駅弁」は、それらを全部1つの箱に入れ込んだものじゃないと…。
そんなところまで、地元の皆さんの味覚や食文化を研究した上で、今回、パリでの販売を行いました。―駅弁をお求めになったフランスの皆さんの声は届いていますか?
フランスのお客さまによく言われたのが「コレはちゃんとした駅弁なのか?」ということです。
つまり、「ちゃんと日本人が作っているのか?」ということを訊かれました。
「日本から職人を連れて来て作っていますよ!」と伝えると、「じゃあ買う!」とおっしゃってくれるお客さまが多くいらっしゃいました。
フランスの皆さんは、「本物志向」なのです。
―フランスの皆さんは、どうしてそのようなことを訊かれるのでしょう?日本食はメジャーで人気もありますが、どうしても日本人ではない東洋系の顔の方が、“日本食”を謳って作っているケースがとても多いのです。
この“東洋系の顔の人が作る日本食”に、フランスの皆さんも気付いてしまっています。
自分たちは騙されていないかどうかというところを、しっかりと見極めて来るのです。
だからこそ「日本から来た職人が作っている」ことに、とても有難みを感じて、喜んで買って下さっていました。
この反響は、とても嬉しく思いました。―「ニッポンの駅弁は勝負できるぞ!」という手ごたえはありましたか?
十分にありました。
日本で普段、「こだわり」を持って駅弁を開発していることが、フランスの皆さんにも受け入れられたなぁと感じました。
和食であれ、洋食であれ、一番大事なことは「こだわり」なのだと…。
―もしも今後、駅弁の常設店などを構えるとしたら、課題はありますか?駅弁の味を知っている「職人」を、継続的に置き続けられるかどうかという点です。
現地の職人さんを雇って作ったら、できなくはないと思います。
でも、それはフランスの方が求めている「駅弁」ではなく、ただの弁当になってしまいます。
シンプルにマンパワーの問題ですね。
(斎藤松月堂・齋藤賢社長インタビュー、つづく)
【お品書き】
・ご飯
・シャロレー牛あぶり焼
・パプリカ(赤・黄)
・ししとう
・厚焼き玉子
・煮物(竹の子、人参、椎茸)
・ガリ生姜
「シャロレー牛あぶり焼き弁当」は、2018年11月1日から18日の間、期間限定で東京駅の「駅弁屋 祭」でも、1,500円で販売が行われました。(現在は販売終了)
なお、日本版の「シャロレー牛あぶり焼き弁当」は、衛生安全上の理由から、アスパラガスがししとうになっています。
現在は、前回ご紹介の「いわてあぶり焼き和牛弁当」でこれに近い食感を楽しめます。
次回、斎藤社長インタビュー完結編、駅弁の未来を語ります。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/