【ライター望月の駅弁膝栗毛】
箱根の山並みをバックに東海道本線を下る、211系電車の普通列車静岡行。
新幹線の停まる三島から沼津までは普通列車で1駅、時間も4~5分程度です。
朝夕は宇都宮・高崎から、東京経由の普通列車沼津行もやって来ます。
首都圏の駅のLED掲示にも、朝夕を中心に毎日、「沼津」の行先が表示されますので、「沼津」という地名に馴染みのある方は多いのではないかと思います。
沼津駅南口には、かつての「沼津機関区」のモニュメントが設置されています。
国鉄時代、東海道線が御殿場回りの頃はもちろん、その後も電気機関車と蒸気機関車の付け替えなどで、沼津では列車が長く停まり、駅弁は大変多く売れたと言います。
昔から東海道を下る旅行者たちには「沼津まで“ぬまずくわず”で」と云われ、駅弁文化が大きく花開いた駅でもありました。
そんな「沼津機関区」の跡地はいま、再開発されて総合コンベンション施設の「プラサ・ヴェルデ」となっており、日々、様々な催しが行われています。
そんなプラサ・ヴェルデで12月16日に行われた、地元「JAなんすん」の沼津農林まつりで、沼津駅弁の「桃中軒」が地産地消料理コンテストを開催しました。
じつはこのコンテストの入賞作品の一部は、春の季節駅弁として「商品化」も…。
まさに“駅弁のたまご”が生まれる瞬間を見に来たという訳なんです!
朝9時過ぎ、早くも会場の一角では、JAなんすん関係者、桃中軒関係者の皆さんによる料理の審査が始まっていました。
今回の募集テーマは「沼津の農畜産物を使った春を感じることができるレシピ」。
参加資格は、「当日朝、会場に自慢の料理を持って来ることができる方」なんだそう。
桃中軒によると、今回は書類審査を通過した15組の皆さんが参加されたそうです。
1時間あまりをかけて、じっくりと審査が進んで行く料理コンテスト。
審査員の皆さんも、食べ終わると真剣に1品1品、講評を書き込んで行きます。
桃中軒では、平成22(2010)年から隔年で、地元のJAとタッグを組んだ料理コンテストを開催しており、これまで4回、春の季節駅弁として商品化を行って来たのだそう。
じつは10年近く前から、まちの皆さんが参加して、駅弁作りが行われていたのですね。
午前10時すぎ、試食が全て終わった段階で、最終審査に入りました。
各審査員の皆さんが、見ためや味、さらに「弁当にしやすいか」を審査して行きます。
どうやら無事、最優秀賞、優秀賞、JAなんすん特別賞の3つが選定された様子。
では、受賞作品の発表です!
JAなんすん特別賞には、沼津の「西浦みかん」と「西浦ひじき」を使用した「みかん稲荷寿司&とうもろこし×チーズ×ひじき稲荷」が選ばれました。
柑橘系のサッパリとした酢飯、チーズの濃い味をひじきが引き締める感じが好印象。
作者の伊奈さんによると、若い女性にも駅弁を手にしてもらいやすいように、可愛らしい洋風のいなり寿しをイメージしたということです。
優秀賞には、沼津の「そろく茶」「ポークウィンナー」「さつまいも」を使用した「そろく茶入りアメリカンドッグとメープル風味の芋けんぴ」が選ばれました。
普段から「料理が大好き!」と話すのは、作者の秦さん。
今回は「家にある食材でスグできるもの」に着想を得て、弁当ということで「冷めても美味しい」を意識した構成にしたということです。
そして最優秀賞には、沼津の「ほうれん草」と「ブロッコリー」を使用した「ほうれん草とブロッコリーのキッシュ」が選ばれました。
コチラのレシピを手掛けたのは…?
地元・沼津の私立高校、「飛龍高等学校」ライフカルチャー部の皆さん。
生徒の皆さんは、普段から地元の「金岡産直市」の皆さんとコラボレーションした活動を行っており、今回も産直市の皆さんから推薦を受けてコンテストに参加したのだそう。
ほうれん草・ブロッコリーという旬の野菜に精通した農家の方々の経験値と、若い世代の皆さんのアイディアが上手くかみ合って、見事、最優秀賞獲得となりました。
沼津農林まつりの会場では、地産地消料理コンテストで見事受賞された3作品の作者の皆さんがステージ上で表彰を受けました。
沼津の駅弁文化を育むきっかけとなった「沼津機関区」ゆかりの場所で、まちの皆さんが参加しながら、見える形で駅弁の開発が行われているのは、大いに意義があること。
順調に行けば、2019年2月から3月頃には、駅弁として販売できそうだということです。
コンテストの駅弁はまだご紹介できませんので、今回は最優秀賞に輝いた飛龍高校とコラボする「金岡産直市」も協力している沼津駅弁「富嶽あしたか牛すき弁当」(1,030円)をご紹介しましょう。
沼津と言うと、魚のイメージが強いかもしれませんが、じつは肉駅弁もあります。
コチラは、沼津駅・三島駅などの駅限定販売となっているのも1つの特徴です。
【おしながき】
・ご飯
・あしたか牛すき煮(あしたか牛、しらたき、ねぎ)
・味付煮玉子
・季節の野菜(ブロッコリー、人参)
・七味
沼津から見ると、富士山の手前にそびえる愛鷹山(あしたかやま)の山ろくで育てられた、ご当地ブランド牛「あしたか牛」を使って作られている「富嶽あしたか牛すき弁当」。
東海エリアの味付けはやや甘めに感じる方も多いので、関東方面の濃い味が好きな方は七味でうまく調節すると、程よいピリ辛感で味わうことが出来ます。
食べるにつれて、牛肉と煮込まれたねぎのバランスも心地よくなり、箸が一層進みます。
「沼津のように地元の食材中心で駅弁ができる地域は、じつは少ないと思います」と胸を張るのは、株式会社桃中軒の宇野秀彦社長。
そのカギとなる、地元JAとの協力体制について「いい食材を(程よい価格で)使えるのが大きなメリット」だそうで、このようなコンテストを通じた駅弁作りも「作るほうにも大きな発見がある」と話します。
また、季節駅弁を継続的に販売していることについては、「地元の旬の食材をできるだけ多くのお客さまに召し上がっていただきたい」という思いでやっているのだそう。
コンテストの結果を踏まえ、ココから先はどのような形で、保存性が重要視される「駅弁」として落とし込んで行くかは、明治24年創業・老舗駅弁屋さんの腕の見せどころ。
沼津の皆さんのアイディアが詰まった桃中軒・春の季節駅弁は、新たな情報が入り次第、改めて「駅弁膝栗毛」でもご紹介して行きます。
東海道新幹線では、三島駅で販売されている「桃中軒」の駅弁。
三島駅は東海道新幹線では希少な島式ホームとなっていることもあり、上下線の乗客に対応するため、いまもホーム上の売店の数が多いのが嬉しいところ。
また「こだま」号では、「のぞみ・ひかり」の通過待ちで、三島で長く停まる列車もあります。
年末年始のお出かけ、ご当地ならではの味を駅弁で楽しんでみてはいかがでしょうか。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/