【ライター望月の駅弁膝栗毛】
板谷峠を越えて、米沢の街に下りて来たE3系新幹線電車の「つばさ」号。
東京~米沢間は、2019年2月現在のダイヤで、東京9:24発、大宮・福島停車の最速列車「つばさ131号」が2時間を切り、1時間56分で結ばれています。
標準的な「つばさ」は、東京を毎正時(0分)発車、上野・大宮・宇都宮・郡山・福島の順に停車し、福島で「やまびこ」との分割作業を行って、米沢まではおよそ2時間10分です。
米沢駅は山形新幹線の開業に合わせて改築され、平成5(1993)年に完成しました。
白亜の洋館のような駅舎が印象的です。
モチーフとなったのは、ネオ・バロック風の建築として知られ、国の重要文化財にも指定されている、旧・米沢高等工業学校(現・山形大学工学部)の本館。
多くの「つばさ」号は、上下の列車共に、この駅舎に面した1番線に発着しています。
(参考)米沢市ホームページ
そんな米沢駅の1番線に売店を構えるのが、米沢駅弁の「松川弁当店」。
米沢は2社の駅弁屋さんが、1番線改札脇のベストポジションを1日交代で入れ替わりながら務めるのも特徴の1つです。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第14弾、松川弁当店・林真人代表取締役のインタビュー。
今回は、牛肉以外の食材へのこだわりを伺いました。
●山形の雪が育てる美味しいお米!
―米沢をはじめ、山形のお米は本当に美味しいんですが、これはどうしてですか?
冬にしっかり「雪が降る」ことじゃないでしょうか。
米沢牛が冬に脂を貯めるように、雪が降ると、覆われることで「田畑が眠る」んです。
暖かいエリアでは、どうしても二毛作などが行われますので、田畑が痩せてしまいます。
東北地方では年1回しか米を作ることができない分、美味しくなるのだと思います。
だから、米沢の人間は、たくさん雪が降っても「イヤだ」とは言えないんです。
―「松川弁当店」では、どんなお米を使っていますか?いまは、山形のブランド米「はえぬき」と「つや姫」を使っています。
「はえぬき」を使った駅弁が、およそ8割を占めています。
お米は、冷めても美味しく召し上がっていただけるように、加水率にこだわっています。
普通に炊いたご飯をそのまま詰めると、夜にはボロボロとした食感になってしまいます。
駅弁は「明日食べても美味しいご飯」でなくてはいけないので、十分に加水させています。
●駅弁のお米は「加水率」がカギ!―水加減は、家庭で炊くときでも品種や時期で全く違うので、ご苦労も多いですよね?
1年でも、特に大変なのが「新米」の時期です。
いきなり新米をたくさん使ってしまうと、箸を入れたらご飯が全部持ちあがってしまうくらい、粘りが出てしまうようなことも起こりうるんです。
ですので、10月・11月頃の切り替えの時期には、敢えて新米と古米をブレンドさせて、徐々に新米を増やしながら、ちょうどいい加水率になるようにしています。
―と言うことは、ときによってお米を水に浸す時間も変わって来ると…?米沢では、米に水を吸わせることを「うるかす」と言いますが、米は20時間、30時間「うるかし」たとしても、米がこれ以上水を吸わないとなったらもう吸いません。
駅弁の場合は、炊いてすぐに食べても、時間が経ってから食べても、美味しいことが求められるので、(その時々によって)加水率は本当に気を遣うんです。
加熱式容器の駅弁だと、蒸気を使いますので、若干“ごまかし”が効くんですが…。
●地元・米沢の調味料が引き立てる「駅弁」!―「松川弁当店」は、調味料にもこだわっていますよね?
醤油・酒・味噌などの調味料は、地元・米沢のものを使用しています。
特に去年、京王百貨店で販売した「米沢牛 伝統の百年焼肉弁当」では、実際に各社さん創業100年以上の老舗のものを使って作りました。
焼肉や牛肉煮などのたれは昔からのものを継ぎ足しながら使っています。
味は醤油ベースで、隠し味はやっぱり「味噌」ですね。
―米沢って「味噌文化」なんですか?米沢は夏、暑くなります。
加えて、昔は(最上川舟運で)流通がよくなかったので、保存食が必要とされました。
例えば、米沢では祝い事などがあると、必ずと言ってもいいほど鮭の押寿しを食べます。
これが、本当にたくさん塩を盛って、とてもしょっぱくしていただきます。
そんな食文化のなかで、「味噌」を使った料理もたくさんできたのではないかと思われます。
(松川弁当店・林真人代表取締役インタビュー、つづく)
そんな米沢の味噌を巧く使った味付けが印象に残る「松川弁当店」の米沢牛駅弁。
なかでもレトロな雰囲気のスリープ式の包装が目を引くのは「米澤牛牛肉瓣當」(1,350円)。
商品名の背景に描かれている建物は、米沢駅舎のモチーフとなった旧・米沢高等工業学校の本館です。
昨年秋に行われた「駅弁味の陣2018」にも参戦した駅弁でもあります。
【おしながき】
・白飯(山形県産はえぬき)
・米沢牛牛肉煮
・玉子焼き
・煮物(人参、筍、椎茸)
・きんぴらごぼう
・赤かぶ漬け
米沢牛を秘伝のタレでじっくりと煮込んで、味をしみ込ませたと言う「米澤牛牛肉瓣當」。
このような「載せ弁」では米と肉とのバランスがちょうどよくなるようにしていると言います。
地元の調味料で引き出された地元の牛肉のうま味は、やっぱりクセになる味。
そして、名物「赤かぶ」の漬物が添えられているのも、米沢らしいものです。
米沢をはじめとして「東北は食材の良さに恵まれていることが大きい」と話す林社長。
次回は社長としての、駅弁屋の経営について伺います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/