【ライター望月の駅弁膝栗毛】
奥羽山脈と米沢市街をバックに、雪に覆われた田園地帯を軽快に走り抜けて行く2両編成のキハ110系ディーゼルカーは、米沢駅に乗り入れる米坂線の列車です。
米坂線は、米沢と新潟県の坂町(さかまち)を結ぶ非電化のローカル線。
現在、全線を直通する列車は、1日わずか5往復で、うち1往復が快速「べにばな」号。
かつての急行列車に由来する列車として、新潟~米沢間で運行されています。
いまから10年前・平成21(2009)年の春まで、米坂線の列車はキハ58形・キハ52形など国鉄時代の気動車で運行されていました。
私自身も小野川温泉に連泊するなかで、この地を案内してもらったと記憶しています。
最後、一部のキハ58形気動車には、かつての国鉄急行色が復刻塗装されたこともあり、急行「べにばな」の時代を彷彿とさせる風景を見ることができました。
昔は奥羽本線・仙山線経由で仙台、その後も山形まで直通していた急行「べにばな」。
山形新幹線の開業でレール幅が変わるため、米沢止まりとなり、快速列車となりました。
そんな「べにばな」号が米沢に停車する間に、米沢駅で駅弁立ち売りをやったことがあると話すのが、「松川弁当店」七代目の林真人(はやし・まさと)代表取締役(52)です。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第14弾林社長編、本日いよいよ完結です。
●駅弁は1社では成り立たない!
―米沢の駅弁は2社体制という環境ですが、どう分析されていますか?
2社あることで、お互いに切磋琢磨することができるのは、お客様により良いものを提供できるということで、いいことではないかと思います。
我々は、地元・米沢が誇る「ブランドの食材」をしっかり使った駅弁を作ること。
そして、冷めても美味しく駅弁を提供できるように、従業員とも話し合いと試行錯誤を重ねながら、商品開発を進めています。
―全国的には、ご苦労されている駅弁屋さんも多いですよね?駅弁マークを付けている中央会所属の駅弁屋さんは、100を切っています。
後継者の問題、工場が古くなってしまったことによる衛生的な問題、新幹線の開業で在来線しかなくなって売り上げが落ちたなど、駅弁屋さんが辞めていく理由は様々です。
でも、これ以上、駅弁屋さんを減らすわけにはいきません。
駅弁は1社では成り立たないんです。
●お客様のニーズにきめ細かく応えて、駅弁文化を残したい!―社長として25年あまり、いまの日本の駅弁の現状をどのようにご覧になっていますか?
駅弁業界は、どうしても“小粒な”駅弁屋さんが多いのが実情です。
駅で1日5個、10個しか売れないというお店もあります。
でも、これからは衛生面をしっかりした上で、郷土色がしっかりあること。
さらに、全国に輸送駅弁として発送できるかどうか。
そこが、駅弁を続けていけるかどうかのカギになると思います。
―駅弁がこれからも生き残って行く術は?お客様のニーズにきちんと応えられて、新商品の開発もできる…そうしない限り、駅弁は生き残っていけないのではないでしょうか。
例えば300しか作れなくても、300以上欲しいというお客様のニーズが来たりする訳です。
私自身もMAXの生産量は一応決めていますが、それでも「できることは何でもやろう」という思いで、少量の注文から大口の注文まで、きめ細かく対応しています。
●西日本エリア…大いに興味あります!―「松川弁当店」の駅弁は最近、米沢だけでなく、東京駅をはじめとした首都圏主要駅、羽田空港、六本木ヒルズなどでも見かけますが、今後販売してみたいエリアは?
国内では西日本エリア、特に京都など歴史のあるところで販売してみたいです。
ウチは120年ですが、120年ではまだお子様みたいなレベルなんですよね。
老舗も多い環境のなか、しかも海外から最もお客様がいらっしゃる地域で、どれだけ「松川弁当店」の弁当が通用するのか、チャレンジしてみたい気持ちはあります。
我々の従業員もまだまだ、長年続いている食文化を学ばせてもらっているところです。
―海外はいかがですか?正直、私の代では厳しいかもしれません。
やるのであれば、1社単独よりも、何社かが共同で出すしかないのではと思います。
駅弁文化を海外に広めるという考えは分かりますが、牛肉をはじめ日本の食材を使ってできる訳ではないので、もろ手を挙げて賛成というところまでは…。
輸出入制限や関税の問題など、クリアすべき課題がまだたくさんあると思います。
●駅弁に最適! 米坂線の旅―林社長お薦め、米沢周辺の“駅弁が美味しい”車窓はありますか?
私がお薦めしたいのは、「米坂線」です。
米坂線の沿線、小国(おぐに)の手前に、じつは「弁当沢」という場所があるんです!
駅弁屋としては、やっぱり列車でいただくのに、いちばんマッチする所ではないかと思います。
松川弁当店は、米坂線の急行「べにばな」や普通列車でも車内販売を行っていました。
新緑や紅葉の時期はもちろん、いまの時期は水墨画のような景色が楽しめると思います。せっかく米沢から「松川弁当店」の駅弁と一緒に、米坂線の駅弁旅を楽しむなら、米沢ならではのちょっと入手しにくい駅弁を選びたいもの。
2日前までの完全予約制駅弁、「米沢牛牛づくし」(2,140円)はその1つです。
全国の惣菜や弁当業界の専門展「ファベックス惣菜・べんとうグランプリ2017」で、見事、金賞を受賞した駅弁でもあります。【おしながき】
・ご飯(山形県産米・はえぬき)
・米沢牛ハンバーグ
・米沢牛カットステーキ
・米沢牛サイコロステーキ
・人参煮
・いんげん煮
・コーン炒め掛け紙を外すと、米沢牛の「ハンバーグ」「カットステーキ」「サイコロステーキ」!
1つの折で、米沢牛の3種類の味が楽しめてしまう贅沢な駅弁です。
なかでもカットステーキは、駅弁なのに、冷めてもまるで焼肉&ステーキ屋さんで焼いたかのような柔らかい食感で、米沢牛の脂のうま味までしっかり楽しむことができます。
米坂線でのんびり旅を楽しみながら米沢牛…最高に贅沢な時間が過ごせそうです!
●駅弁を通して、全国と米沢をつなぎたい!―これからニッポンの駅弁、どう盛り上げていきたいですか?
私自身は東北の駅弁屋ですので、「東北」というキーワードを大切にしながら、そのなかの山形の駅弁として美味しいものを提供することで、召し上がった皆さんが「山形・米沢へ行ってみたいな」というきっかけ作りをしたいと考えています。
その結果、小野川温泉に泊まっていただいたり、米沢市内のお店ですき焼きや焼肉を楽しんでいただくことで、(東京をはじめ、他の地域に住んでいる方と)地元の皆さんをつないでいくのが、私たちの大きな役目ではないのかなと思います。
―120周年の「松川弁当店」、これから力を入れていきたいことは?正直、5年、10年先のことは分かりません。
私自身、150年・200年と続いて行く企業を目指していますが、世の中の動きがあまりに早いので、この2~3年、単年度をしっかりとやっていくことに尽きると思います。
加えて120周年という節目ですので、先代からの駅弁への思いに立ち返って駅弁文化に恥じないもの、お客様に支援していただけるような駅弁作りを地道にやっていくこと。
そのためにも、まずは120周年の5月に向けて、記念の新作駅弁を開発していきたいと考えています。
(松川弁当店・林真人代表取締役インタビュー、おわり)
いまや希少な立ち売りや車内販売の経験を持つ、松川弁当店の林真人代表取締役。
米沢牛をはじめとした地元食材へのこだわりや昔ながらの掛け紙・綴じ紐のある駅弁は、古き良き駅弁の時代を、身を持って知っている林社長だからこそなのかなと感じます。
シビアな現状分析、販路拡大も「駅弁文化を守りたい」という強い思いに基づくもの。
奥羽本線・福島~米沢間開業120周年の今年、ぜひ板谷峠を越えて、米沢の味がたっぷり詰まった駅弁を、じっくりと楽しんでみてはいかがでしょうか。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/