【ライター望月の駅弁膝栗毛】
奥羽本線は、福島から山形、秋田を経由して青森に至る路線です。
かつては、寝台特急「あけぼの」や急行「津軽」といった直通列車がありましたが、現在は福島~新庄間がレール幅1,435mmの標準軌となったため、全線直通列車はありません。
この福島~新庄間には、「山形線」の愛称が与えられており、719系電車をはじめとした普通列車用の車両も、標準軌に対応したものとなっています。
山形新幹線が開業した翌年・平成5(1993)年から米沢駅弁「松川弁当店」のトップを務めているのが、7代目の林真人代表取締役。
お父様がご病気で倒れられために、27歳で80歳代後半のお祖母さまから直接、駅弁屋の経営を受け継ぐことになったと言います。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第14弾、今回は駅弁屋の経営について伺いました。
●駅弁以外にも幅広い業態でリスク分散!
―社長に就任されてから、「松川弁当店」は駅弁だけでなく、焼肉屋さんやラーメン屋さんなどを幅広く展開されるようになりましたね?
駅弁屋のやり方としては、2種類あると思います。
家内工業的にやるか、規模を拡大するか。
その選択を迫られたなかで、駅弁だけでやって行けないことはありませんでしたが、それだけでは不安が大きかったので、「べこや(現・米澤牛DININGべこや)」をはじめとした焼肉店やラーメン店も展開することで、全体的なリスクの分散を図ることにしました。
加えて、私自身も板前をやっていましたから、経営という立場で料理人さんにその思いを託したところもあります。
―社長になっていちばん大変だった時期は、いつ頃ですか?BSE問題が大きくなったときです。
レストランでは「きょうはお客さんが1人だった、ゼロだった」という日が長く続きました。
加えて、牛肉駅弁もほとんど売れなかったんです。
いまにして思えば、幕の内系の駅弁に切り替えればよかったのでしょうが、なかなかそうすることもできず、売上げに大きく響きました。
●大きな経験をさせられた「食の安全」の問題―確かに2000年代初めの「BSE問題」は、大きな波紋を呼びましたよね?
国産の牛がBSEになったということが大きかったんです。
「松川弁当店」ではすべて国産を使っていたため、大きな打撃を受けました。
ただ、(味の面などもあって)どうしても輸入の牛肉に頼ることはできませんでした。
新幹線開業前の運休と合わせて、「問題」に直面したときに、どう手を打つかということは、大きな経験をさせられたように感じます。
―平成23(2011)年の「東日本大震災」では、いかがでしたか?震災では、山形でもそれなりに被害がありました。(注)
このときは、東北全体で「復興を目指す」という形に持って行くことができました。
例えば、NRE(日本レストランエンタプライズ)さんに、東北地方の駅弁をまとめて販売していただく機会を設けてもらったりしました。
全国の皆さまに助けていただいて、何とかギリギリ乗り越えることができました。(注)東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、米沢市内で震度5強を観測。
●外国人実習生に支えられるニッポンの駅弁―いま、経営者として、最もご苦労されていることは何ですか?
震災以降続いている「人手不足」です。
駅弁屋は365日無休の仕事なので、募集をかけてもまず人が集まりません。
米沢はだいたい10万人の都市圏ですが、いま、求人をかけて人に来て貰えるのは、土・日が休みの所くらいで、365日無休・シフト制となると、条件から外れてしまいます。
加えて、朝が早く、人が休みのときが忙しいとなりますと、まず人が集まらないんです。
―深刻な人手不足を、どのように乗り切っているんでしょうか?いまは、中国からの実習生の皆さんの力をお借りしています。
既に3年目になりますが、1期生は6名、2期生が3名、これから3期生の面接に中国に行って、3名から4名、米沢に来ていただく形になるかと思います。
とても優秀な皆さんで、普段から弁当の絵をスラスラっと描くことができるんです。
しかも寮に帰って復習されるので、製造ラインに立つとまずノーミスで仕上げてくれます。
―コミュニケーションの問題はありませんか?優秀な皆さんに来ていただいているだけに、社員も実習生の皆さんに作業をお願いする際には、どういう意図があるのかということを、誠意をもって説明するようにしています。
その上で「一緒に作っていくんだ」という気持ちを共有することが大事になっています。
ちなみに、工場全体では総勢およそ80名のシフト制でやっていて、たくさんのご注文をいただいているときは、焼肉店などグループのお店にヘルプをお願いすることもあります。
(松川弁当店・林真人代表取締役インタビュー、つづく)
厨房で製造ラインを見させていただくと、製造する駅弁が切り替わると、まずこれから作る駅弁の盛り付け見本(写真)が流れて行きます。
各工程に立っている方は、この図で改めてチェックをして盛り付けへと入って行きます。
おかずが多くて嬉しい幕の内駅弁は工程が多く、より慎重な作業が求められます。
今回は、そんな幕の内系の「山形日和 ふるさと弁当」(1,100円)をご紹介しましょう。
【おしながき】
・白飯(山形県産つや姫) 梅干し
・炊き込みご飯
・牛肉煮 にんにくの芽
・肉団子
・鮭とじゃがいものマヨネーズ焼き
・玉子焼き
・煮物(里芋、人参、椎茸、絹さや、高野豆腐)
・こごみ胡麻和え
・赤かぶ酢漬け
・さくらんぼシロップ漬け
松川弁当店では希少な「つや姫」を白いご飯に使った駅弁です。
鮭をじゃがいもで包んだマヨネーズ焼きは面白い食感で箸が進みます。
十八番の牛肉煮、肉団子といった肉系のおかずは、安心の「松川弁当店」の味。
香の物として赤かぶ漬け、デザートにサクランボが付いて来るのも嬉しいところ。
おかずのラインナップを見ると、やっぱり山形に足を運びたくなりますね。
この駅弁、現在は首都圏でお目にかかる確率の方が高いかもしれません。
次回、松川弁当店・林社長インタビュー、遂に完結!
駅弁のこれからについて、お話しいただきます。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/