【ライター望月の駅弁膝栗毛】
秋田エリアを代表する観光列車、快速「リゾートしらかみ」号。
五能線の美しい車窓を友に、全車指定席のリクライニングシートで、ゆったりとした旅が楽しめることから、全国トップクラスの人気を誇る観光列車です。
今年度からは車内販売の見直しと合わせ、地元の皆さんが列車に乗り込んで車内販売を行う“ふれあい販売”が拡充されており、いままで以上に“地域密着型”の列車となっています。
鉄道文化と地域という観点では、駅弁屋さんでも“地域密着”は1つのキーワード。
この日は、大館市立北陽中学校2年生の丸屋悠斗君・羽生悠一君・藤盛太智君の3名が、職業体験の授業で、大館駅弁「花善」の食堂に入って、開店前のミーティング中でした。
なかでも藤盛君は、昨年度に続いて2回目の「花善」で、前回は反省がいっぱいだったそう。
「今年こそは笑顔で接客できるように頑張りたい!」とリベンジに燃えていました。
全国有名駅弁の1つ「鶏めし弁当」があり、フランス・パリにも出店する一方で、地域密着の取り組みも積極的に行っている「株式会社花善」。
その8代目・八木橋秀一社長にお話を伺っている「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第17弾は、本日いよいよ完結編となります。
今回は、花善が行っている地域貢献について注目していきましょう。
●「鶏めし」を大館市民みんなに食べてほしい!
―「花善」は、「鶏めし」の学校給食など、地域貢献も積極的に行っていますよね?
大館市独自の取り組みで「ふるさとキャリア教育」を行っています。
特産を食べるだけではなく、特産を通じて学んでいこうというものです。
地方都市は、どうしても人材が都市部に出て行ってしまいます。
どうにかして流出を食い止めるためには、「ふるさとの良さ」を知ってもらうしかありません。
花善もその取り組みに賛同して、「鶏めし」を学校給食に取り入れてもらっています。
―どうして「給食」に?
じつは最初、とてもショックな出来事がありました。
私が小学校に駅弁屋の社長として特別講師に呼ばれて講話をしたとき、「鶏めしを食べたことある人?」と訊いたら、何と1割しか手が上がりませんでした。
会社に戻って、どうにか大館市民全員に、「鶏めし」を食べてもらう術はないか考えました。
そこで皆さんに1度は食べてもらえる「給食」に採用してもらって、今年(2019年)で7年目となります。
●人を動かし、人と人をつなぐパワーがある「鶏めし」!
―「鶏めし給食」…児童・生徒さんの反応はいかがですか?
先日、少しうれしい話題がありました。
大館にも不登校のお子さんはいます。
でも、そのお子さんが唯一学校に顔を出してくれる日が、「鶏めし給食」の日なんです。
「鶏めし」の存在が、その子にとっての新たな1歩を踏み出すパワーになってくれているような気がして、とても嬉しく思いました。
―花善では中学生の職業体験を受け入れていたり、地元の子供たちと様々な連携をされていますよね?
私自身が子供たちの面倒を見るのが好きというのもありますが、例えば大館の子供たちは、修学旅行で小学校は函館、中学校は(ハチ公つながりで)東京・渋谷へ行きます。
このとき、自分のふるさとをPRするためのビラ配りをすることになっています。
先日、教育委員会の方が教えて下さったんですが、大館のすべての学校で、ビラに「鶏めし」のことを書いてくれているそうです。
●大館の街ぐるみで120周年を!
―今年120周年の「花善」、これから力を入れていきたいことは?
JR大館駅と花善が120周年で、じつはスーパーの「いとく」、秋田銀行大館支店、秋田県立大館鳳鳴高校も今年が120周年なんです。
つまり、大館は鉄道が生まれたことで物流が生まれ、商売が生まれ、お金を預けるところも必要になり、学ぶ学校も必要になった…それが120年前の出来事なんです。
なので、大館の街を巻き込んだ形で「120周年」を盛り上げていけたら…と思っています。
(八木橋社長インタビュー、後半へつづく)
大館の地元の方向けに開発された鶏めし駅弁が、「鶏めし玉手箱」(525円)です。
実際、大館市内をはじめ周辺の町で開かれる会合などで重宝されていると言います。
前日午後1時までの予約制で、1個から対応してもらえます。
(お渡しは午前10時以降)
525円という安価でありながら、何と2段重ねという、スゴイ弁当なのです!
【おしながき】
(一の重)
・鶏のせんべい粉揚げ
・蓮根の竜田揚げ
・田楽味噌和え
・鶏ひき肉と枝豆蒸し
・さつまいものレモン煮
・みずの生姜和え
・しば漬け
(二の重)
・味付けご飯(秋田県産あきたこまち、鶏肉の煮汁)
・そぼろ玉子
・飾り麩
鶏めし弁当の味付けご飯と、個性的なおかずがたっぷり詰まった「鶏めし玉手箱」。
おかずの鶏肉も唐揚げではなく、せんべい粉を使うことで一味違った食感が楽しめます。
また、秋田イチ押しの枝豆が入った鶏ひき肉と枝豆蒸しや、秋田らしい山菜「みず」の生姜和えなど、ひと手間もふた手間もかかったおかずが程よく入っているのも特徴。
525円の二段重、旅行者にとっては、大館へ足を運んだ“ご褒美”のような駅弁です。
●もっとお客さまの顔を「見て」、鶏めしを作りたい!
―これからニッポンの駅弁をどんな形で盛り上げていきたいですか?
もっと、お客さまのほうを向いた商売をしていきたいと思っています。
駅弁屋には、「お客さまが召し上がっているところを見られない」という特性があります。
だからこそ、できるだけ「お客さまが召し上がっているところをもっと見よう」と思います。
業界全体としても「お客様が召し上がっているところを見る」ことができれば、駅弁の未来は、もっともっと明るくなると思います。
―「花善」では、どうやって「お客さまの顔」を見ていますか?
「花善」では、工場に併設して食堂をやっています。
お客さまがどんなものを残しているか、折を縦に持っているか、横に持っているかなど、これも「見ない」と分かりません。
あと、「駅弁大会」に呼ばれていくときも、敢えて私が行って作っています。
これはお客様の顔が見えるのと同時に、いまの自分たちの立ち位置もわかるんです。
●秋田の山を楽しみながら、秋田を訪れて「鶏めし」を!
―八木橋社長お薦め、大館周辺の“駅弁が美味しい”車窓はありますか?
近年はトレッキングのお供などでも、ご用命いただくことが多くなりました。
リュックに詰めこんで、山の上でいただくというケースもあるようです。
「鶏めし弁当」は鶏肉を盛りつけた後にベタっと押し込むので、なかが崩れることがありません。
白神山地、十和田湖、八幡平でも、秋田の山を眺めながらいただいてほしいなぁと思います。
―確かに「鶏めし弁当」は、ご飯に鶏肉がめり込んでいるのが、1つの特徴ですよね!
祖母から言われていたのは、「汁もれ」するような弁当を作るなということ。
そして、「片手で食べられる弁当」であることです。
駅弁というのは、本来「男メシ」なので、片手で持ってかき込むというのが原点。
ただ、駅弁には“色気”があることも大事なので、掛け紙にはこだわっていきたいと思います。
これからも、このスタイルを守って、駅弁を作っていくつもりです。
(株式会社花善・八木橋秀一社長インタビュー、おわり)
“鶏めし駅弁・東の横綱”と呼ばれて久しい、花善の「鶏めし弁当」。
美味しさの秘密は、常にお客さまのことを考え、敢えて紙のレシピを作らず、その日に出すべき、最善の「鶏めし弁当」を作っていることにあると思います。
その強い自負が、「秋田から世界へ」という強い原動力にもなっているように感じました。
この夏は秋田・青森へ足を運んで、「鶏めし弁当」のパワーを自らの五感で実感してください。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/