【ライター望月の駅弁膝栗毛】
今年(2019年)で運行開始から20周年を迎えた、磐越西線の「SLばんえつ物語」号。
昭和44(1969)年の廃車後、新津第一小学校の校庭で保存されていたC57形蒸気機関車180号機が、地元の熱意によってJRが復元、復活を果たしてから20年となりました。
現在、C57-180号機は、快速「SLばんえつ物語」号として7両の客車を率い、磐越西線・新津~会津若松間を片道約3時間半かけて、週末を中心に1往復しています。
「SLばんえつ物語」号の運行日、会津若松行の始発駅・新津では、発車時刻10時05分のおよそ45分前から、ホームで駅弁の台車売り(立ち売り)が行われています。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第18弾「神尾弁当部」編では、この駅弁販売に密着しました。
私が訪れた日は、朝9時過ぎ、神尾雅人(かみお・まさと)社長が、自ら台車を押して登場。
さっそく、目の前の新津駅へと向かいます。
●歴代・新津駅長さんの思いを受け継いで行われる駅弁の立ち売り!
現在、「SLばんえつ物語」号が発車するのは、新津駅3番線。
新潟駅高架工事に伴って、新津始発になったため、新潟駅9:30発の快速「SLリレー号」が到着する向かいの2番線から、「SLばんえつ物語」号に乗り継ぐ形となっています。
ホームにはひと足早く、同じく新津を拠点とする駅弁屋さん・三新軒の皆さんも…。
昔の新津駅長さんから譲られたという制帽をかぶったら、立ち売りのスタンバイOKです!
9:20過ぎ、会津若松寄りからバックで3番線に入って来た「SLばんえつ物語」号。
新潟駅では新幹線の高架脇のホームから発車していましたが、新津駅始発になったことで、天気に恵まれた日は、機関車にしっかり日が当たって、より美しく見えるようになりました。
入線するとC57形蒸気機関車の運転台前には、さっそく見学の皆さんが行列。
今季は運行開始が7月になり、復活を待ちかねていた皆さんも多かったことでしょう。
●大人気!「SLばんえつ物語弁当」
新津駅での台車売りは、「SLばんえつ物語」号の2号車付近。
客車が入線し、新潟からの接続列車が到着すると、台車の周りには人だかりが生まれます。
神尾社長も、次々とやって来るお客様1人1人とお金をやり取りして、駅弁を手渡します。
訪れた日は、新津駅1番ホームにちょうどE001形「TRAIN SUITE四季島」が入線。
蒸気機関車と電化・非電化どこでも走れる最新式車両の“豪華共演“となりました。
駅弁を購入された方には、「SLばんえつ物語」号の絵はがきがプレゼントされます。
こういった“ささやかなプレミア感”が嬉しいもの。
ハガキには「SLばんえつ物語」号が走る磐越西線沿線の美しい風景が印刷されています。
「SLばんえつ物語」号の4号車には、列車内から郵便を出すことができるポストがありますので、切手を用意しておけば、駅弁をいただきながら、思わず筆を走らせたくなるかも!?
●発車時刻ギリギリまで、決してあきらめない駅弁の立ち売り!
「神尾弁当部」の駅弁と言えば、「えんがわ押し寿司」が人気ですが、この立ち売りにおけるいちばんの人気駅弁は、「SLばんえつ物語弁当」(1000円)です。
普段あまり駅弁を食べない方も多いSL列車だけに、列車名を冠した駅弁は強い!
乗車記念を兼ねて購入される方も多いとみえ、次々に売れてあっという間に完売。
発車まではまだ15分くらい…神尾社長はどうするのでしょうか?
程なく、神尾弁当部の方が、駅弁入りの袋を持って現れました。
じつは神尾社長、売れ行きが好調なことから、携帯電話で新津駅前にある本社に「SLばんえつ物語弁当」を追加発注していました。
手早く弁当を作り、駅弁を求めるお客様に決して残念な思いをさせないという強い気持ち。
これぞ、駅前にある昔ながらの駅弁屋さんの真骨頂と言えましょう。
写真撮影に走り回って、発車直前に来られたお客様も、しっかり駅弁を買えました。
都市部では、陳列棚から自分で手に取るタイプの店舗が増え、駅弁を買うときも、交通系ICカードなどを使ったキャッシュレス決済となるなか、お金と言葉をやり取りしての駅弁購入。
蒸気機関車が鉄道文化として動態保存されているのと同様に、このような駅弁販売形態も、受け継いでいかなければならない、“無形文化財”のような価値があると私は思います。
多くのお客様が手にされていく「SLばんえつ物語弁当」は、20年前の平成11(1999)年、「SLばんえつ物語」号の運行開始と共に登場した駅弁です。
スリープ式の包装には、磐越西線(新津~会津若松間)の愛称「森と水とロマンの鉄道」というフレーズと共に、ヘッドマーク風のロゴが印字され、その下にはC57形蒸気機関車180号機の写真がドーンと載っています。
【おしながき】
・醤油飯(新潟県産コシヒカリ使用)
・塩鮭焼き
・鶏肉の照焼き
・蒲鉾
・煮物(ホタテ・ニシン・椎茸・蓮根・筍・人参・きぬさやほか)
・いくら醤油漬け
・錦糸玉子
・大根味噌漬け
包装を開けると、思わず嬉しくなる豊かな彩り!
新潟らしく鮭の塩焼きをメインに、鶏肉の照り焼き、ホタテ・ニシンの煮つけをはじめとした、山海の幸が醤油ごはんの上にたっぷり載った駅弁です。
昔ながらの汽車旅のお供には、やっぱり伝統の味が似合うもの。
いくらの醤油漬けをアクセントに使いながら、どんどん箸が進みます。
午前10時05分、長い汽笛と共に快速「SLばんえつ物語」号は、定刻通り新津駅を発車。
最後尾の展望グリーン車が通り過ぎるまで、駅弁屋さんも手を振ってお見送りです。
お客様とのやり取りが、どこかほっこりした気持ちにさせてくれる、新津駅の駅弁販売。
じつは神尾社長、子供の頃から、駅弁やアイスの立ち売りを“お手伝い”していたのだそう。
「磐越西線の列車が発着する0番線がいちばんよく売れた」と話します。
復活から20年、この秋も多くの人を乗せ、走り続ける「SLばんえつ物語」号。
山都で小休止の後、終着・会津若松を目指し、歴史ある一ノ戸川橋梁を渡って行きました。
次回以降、「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第18弾・神尾弁当部編、この神尾雅人社長に、神尾弁当部の歴史と、駅弁作りへのアツい思いを伺っていきます。
じつは神尾家、会津はゆかりの地なんです。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/