【ライター望月の駅弁膝栗毛】
朝7時半過ぎ、ようやく朝日が差し込んできた芸備線・玖村(くむら)駅(広島市安佐北区)を5両編成のキハ40・47形気動車がゆっくりと発車して行きます。
背後の土手の向こうを流れるのは、中国山地に源を発する「太田川」。
太田川は、この下流で6つの川に分かれ、広い三角州を形成しています。
この三角州の上に発展してきたのが、広島の街です。
太田川の土手に登って、下流に目をやると、大きな建造物が見えます。
これは、昭和50(1975)年に完成した「高瀬堰」という多目的ダム。
広島市とその周辺、約160万人の水道や工業用水の要であり、大雨のときには調整機能を発揮し、広島市内を水から守る役割を担っているとされています。
堰堤の上は県道(高瀬大橋)となっており、多くのクルマが行き交っています。
高瀬堰には歩道も併設されていますので、玖村駅からのんびりと歩いて渡ってみることに。
風のない日には、せき止められた川面に水鏡ができて、美しい景色が楽しめます。
ただ、対岸・安佐南区八木地区の山肌には、まだ新しい砂防ダムを見ることもできます。
この辺りは、平成26(2014)年8月の広島土砂災害で、大きな被害を受けた地域の1つ。
美しい景色が楽しめる場所は、自然の猛威と表裏一体であることを教えてくれます。
高瀬堰を渡り切って、国道54号を横断し、少し歩くとまた線路と駅が見えてきました。
この駅は、同じJRの可部線・梅林(ばいりん)駅。
じつは芸備線・玖村駅と可部線・梅林駅は、太田川をはさんで直線で1Km程度。
道なりでも約1.9km、私が歩いても約25分で、梅林駅にたどり着くことができました。
天気がいいと、散歩気分が楽しめる乗り換えルートといった感じです。
太田川を挟んで2本並ぶように走っている、広島市内の芸備線と可部線ですが、広島駅の駅弁で、穴子が“2本”並び立つ駅弁といえば、何といっても、「広島駅弁当」が製造している「夫婦あなごめし」(1180円)でしょう。
「広島駅弁当」によると、平成6(1994)年の発売以来、1年を通して販売される駅弁では、いちばんの人気を誇るといいます。
【おしながき】
・醤油めし
・煮穴子
・穴子の骨の素揚げ
・広島菜炒め
ふたを開けると、いまにも飛び出してきそうな大きい穴子が2本!
この2本の穴子が、夫婦のように寄り添う様子から、“夫婦あなごめし”というわけですね。
秘伝のたれでじっくり煮詰めたという、穴子のふんわりとした食感にファンも多い駅弁です。
別添の甘めのたれをかけていただくと、元々たれの甘みがしみ込んでいる醤油めしに、さらにたれがしみ込んで、より一層味わい深くなります。
この間に穴子の骨の素揚げをチョイチョイ挟んで、甘さと塩、ふんわり感とカリッと感という、2つの対照的な食感を一緒に楽しんでいくのが楽しい駅弁です。
ちなみに、芸備線と可部線を広島駅経由で乗り継ぐと、両駅間は約1時間、運賃は510円。
玖村駅~梅林駅間を歩くと、およそ30分、ワンコインの節約にもつながります。
健康情報では「1日20分の早歩き」が推奨されますが、これにもちょうどいいくらいの距離。
さらに乗り継ぐ列車を決めて歩けば、自然とタイム設定も生みだすことができます。
鉄道趣味だけでなく、健康にもよさそうな、芸備線と可部線の“徒歩乗り継ぎ”です。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/