保護犬の預かりボランティアをペットロスから救った、1頭のモップ犬
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【ペットと一緒に vol.187】by 臼井京音
保護犬の預かりボランティアとして、これまで数十頭の犬を送り出した、新井康之さん。人生初のペットロスから救ってくれたのは、モップのように薄汚れた1頭の保護犬でした。今回は、新井さんと多くの犬たちとのストーリーを紹介します。
約30頭の犬が巣立つ
埼玉県の高校で教師をしている新井康之さんは、保護犬の一時預かりボランティアを10年余り行って来ました。年間3~4頭預かり、これまでに約30頭の犬が新井さんのもとから巣立ったそうです。
「2005年に、個人でレスキュー活動をしていた方からミニチュア・ダックスフンドを譲り受けたのがきっかけで、保護犬にかかわることになりました」と語る新井さんは、保護活動を手伝いたいと思い、都内の愛護団体に自ら連絡をしたと言います。
「『何かボランティア活動をしたいんですが』と、気軽に電話をしてみました。ハードルは低かったですよ。『では、保護犬の一時預かりボランティアを自宅でしていただけますか?』と、話はスムーズに進みました」とのこと。
譲渡希望者宅でのトライアル生活に入っても、途中で戻って来る保護犬もいたと言います。
「お試し期間中に、家族に唸ってしまったヨークシャー・テリアがいました。最終的に、我が家の新しい家族に迎えたいと名乗りをあげました」
他にも、新井さんが引き取ったシー・ズーがいたそうです。
「その子は、完全なるワン・オーナー・ドッグ。私にしか懐かなかったみたいで、どこの家からも出戻って来ました。『そうかそうか、オレがいいんだな』と、愛犬にしました」
馬、猫、鶏、犬などに囲まれて育つ
新井さんは幼少期から、動物に囲まれて育ったと言います。「縁日で手に入れたヒヨコを、自分で温めて鶏にして、飼育したりしましたね。大きな犬も飼っていて、幼いころは背中に乗って遊んでいました」と、当時を振り返ります。
新井さんの曽祖父は、馬を使った運送業を営んでいたとか。
「育った環境が影響して、私も従兄弟も馬が好きだったので、乗馬クラブに通ったりもしていました。34歳で、競走馬の馬主の資格を取得。売れ残って処分される運命にある馬を引き取り、競走馬として育てたこともあります。幸いにも、それらの馬はデビューしてから連勝記録を重ねてくれて、とてもうれしかったですね」
動物が身近にいない生活は考えられないと語る、新井さん。「大型犬でも、小型犬でも、猫でも。どんな動物でもかわいい」と、微笑みます。
初めてのペットロスに陥る
新井さんは2019年の終わり、初めてのペットロスに陥ったそうです。
「12月9日、私だけにしか懐かなかったシー・ズーの福蔵が旅立ちました。初代のMダックスやヨーキーとの別れも経験していましたが、福蔵を亡くすとこれまでとは違う喪失感に襲われたんです。夜は眠れなくなり、食欲もなくなり……。まさにペットロスと呼ばれる状態でした」
どん底の日々が続いた新井さんでしたが、福蔵くんの四十九日の前後、何気なく眺めていたSNSの画面を見てハッとしたと言います。
「知人のもとに、3頭のシー・ズーが多頭飼育の崩壊現場からレスキューされていたんです。気付いたら、『1頭、引き取らせてください!』と連絡をしていました」
こうして、2020年2月、新井さん家族のもとに推定4歳の大福くんがやって来ました。
まだ人を信用していないけれど……
大福くんは、新井家に到着して約3週間。いまだになかなか心を開いてくれないそうです。
「私の手からおやつを食べないですし、人の目の前では、食事を摂ろうとしません。食欲自体はどうやら旺盛のようで、人の姿がなくなると完食するんですけどね。まるで、野生動物と暮らしているような気分ですよ(笑)」(新井さん)
人間に対しては警戒心が抜けない大福くんですが、先住犬のつよぽんくんとはすぐに打ち解けたとか。「つよぽんも12歳なので、仲よく遊んだりはしないですけど、お互いすぐに打ち解けたみたいです」とのこと。
もともとハイキングやキャンプが趣味だった新井さん夫妻は、大福くんと最近、プチハイキングに出かけたと言います。
「これまで、散歩をほとんどしたことがなかったのでしょう。つよぽんよりずっと若いですが、大福にはしっかりした筋肉がついていません。なので、山登りの道程の半分は抱っこでしたけどね」
新井さんには、大福くんとの実現したい夢があるそうです。
「大福を腕枕しながら眠りたいんですよ! 昨年(2019年)まで、つよぽんは妻と、私は福蔵と一緒に寝ていました。愛犬のぬくもりを感じ、愛犬の寝息を聞きながらでないと、もはや安眠できないんです(笑)」
いまは、新井さんの足元で一旦は丸くなって寝ても、朝には出窓近くのドッグベッドにいるという、大福くん。新井さん夫妻からの愛情をたくさん受け取りながら、きっと次第に心をほどき、笑顔に彩られた思い出を増やして行くことでしょう。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。