「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
大河ドラマで改めて注目されている徳川家康。徳川家康は幼少期に今川氏の人質として駿府(いまの静岡市)、30~40歳代は浜松から駿府へ、そして65歳から亡くなるまでは、大御所として再び駿府に暮らしました。江戸幕府を開いた家康、じつは人生75年のうち、およそ40年を「静岡県」で暮らしていた人物でもあります。そんな家康公をモチーフとした新作駅弁「家康公の駿河御膳」が、きょう1月6日から静岡駅に登場しました。
日本一の山・富士山を横目に、日本晴れの富士川橋梁を、日本一の長距離列車・博多行の東海道・山陽新幹線「のぞみ」号が轟音と共に走り抜けていきます。江戸・日本橋を起点に、徳川家康によって整備された五街道の1つ・東海道は、いまや電気で動く車両が、一度に1300人あまりを乗せ、上下共、約3分おきに最高時速285kmで行き交う時代となりました。420年前、天下人となった家康も、きっと驚く大変化ではないかと思います。
そんな家康が注目を集める2023年1月、静岡駅弁・東海軒が自信を持って送り出した新作駅弁が「家康公の駿河御膳」(2000円)です。東海軒では、40年前の大河ドラマ「徳川家康」の際にも「大御所弁当」を発売して、いまに続くロングセラーとなっています。今回の新作で注目されるのは、掛け紙に、「久能山東照宮献上品」と記されていること。実はコチラ、発売に先立ち、家康公が祀られた久能山東照宮に献上された駅弁なんです。
昨年(2022年)12月1日の朝10時前、静岡市の久能山東照宮にある国宝・御社殿に大きな手提げ袋を持った人たちが続々と入っていきます。こちらの皆さんは、静岡駅弁・東海軒の関係者の方々。紙袋のなかには、東照宮に献上するための新作駅弁「家康公の駿河御膳」が入っているようです。12月1日は東海軒の創業134周年の記念日。これに合わせて4日間の創業祭が行われ、「家康公の駿河御膳」もプレ販売されました。
さっそく、「家康公の駿河御膳」が献上されています。久能山東照宮によると、これまでも食品が献上されたことはあったそうですが、比較的乾燥したものが多く、弁当、しかも駅弁が献上されたことは、あまり聞いたことがないと言います。国宝の建物に積み上げられた駅弁マーク入りの駅弁というのも、なかなか見ない風景。ある意味、歴史的瞬間(?)に立ち会っていると云えるかも知れません。
この日は、東海軒の平尾清社長も出席して神事が執り行われていきました。東海軒では、大河ドラマに合わせ地域を盛り上げるべく、ドラマの舞台の1つ・静岡のまちを訪れる方のために、新作駅弁の開発を決めたと言います。東照宮への献上を終えたあと、東海軒の平尾社長も、「食材にこだわり、気合を入れて作った自信作。皆さんに愛していただいて、まずは100年続く駅弁にしたい!」と力強く抱負を述べました。
【おしながき】
・茶飯 葵の御紋海苔
・鯛の切り身
・茄子のはさみ揚げ
・茄子味噌
・鶏つくね
・自家製鶏ひき肉入り玉子焼き
・黒はんぺんの磯辺揚げ
・海老フライ
・野菜入り豆腐ハンバーグ
・錦糸玉子の海老しんじょう
・煮物(里芋、人参、いんげん、麩、がんもどき)
・桜えびの佃煮
・わさび菜
・わさび漬け
・安倍川もち
メインのごはんは、冷めても緑色が変わらないよう工夫された、静岡ならではの「茶飯」。この上に「葵の御紋」を模った焼海苔が添えられており、湿気を含まないよう個別包装になっています。じつは久能山東照宮には、「逆さ葵」と呼ばれる葵の御紋が逆さになった“隠れ葵”があるとされ、徳川の世が永く続くように、敢えて“未完成”とするため逆さにしたという説があると言います。葵の御紋海苔もそれにあやかったものだそうです。
おかずには、家康が好んだとされるものや、静岡らしさを感じさせるものがたっぷり! 鯛は当時、興津(おきつ・現・静岡市清水区)で獲れたものが好物だったといわれている他、野菜はとくに茄子を好んだことから、はさみ揚げと茄子味噌の2種類を入れ込んだそう。さらに桜えび、黒はんぺんなど、静岡の定番を押さえながら、山葵漬けや安倍川もちも、じつは“家康ゆかりの”食材。静岡の美味しいものを詰め込んだ駅弁になっています。
家康が今川氏の人質時代、教えを受けたという雪斎禅師が住職を務めた清見寺の前を、ちょっぴり豪華な東海道線の普通列車が駆け抜けていきます。「家康公の駿河御膳」も“ちょっぴり豪華な”2000円の数量限定販売駅弁。でも、2000円で静岡の食文化を網羅できると考えれば、お得な駅弁とも言えます。駅弁屋さんの新たな挑戦に家康公のご加護はあるか? あなたも今年、静岡を訪れたら、まずは手に取ってみてはいかがでしょうか。
この記事の画像(全10枚)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/