医師も驚いた“刑務所”の食生活「人間はこんなに変わるのか……」
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総合内科専門医 法務省矯正局医師のおおたわ史絵先生が、上柳昌彦アナウンサーがパーソナリティを務める、ラジオ番組「上柳昌彦 あさぼらけ」内コーナー『食は生きる力 今朝も元気にいただきます』(ニッポン放送 毎週月・金曜 朝5時25分頃)にゲスト出演。内科医師の難関「総合内科専門医」の資格を持ち、近年では、少年院、刑務所受刑者たちの診療にも携わる数少ない日本のプリズンドクターである、おおたわ先生。刑務所にも医師が必要なわけ、刑務所の食事メニュー、自炊の健康効果、食物アレルギーなどについて解説した。
受刑者には元気に働いてもらわないといけない
上柳:刑務所の中には医務室があって、ドクターもいて、受刑者の人たちの体の状況を診るそうですね。
おおたわ:私たちの仕事は刑務所の中だけではなく、拘置所の中、つまり、まだ裁判中の方、もしかしたら無罪の可能性もある方もいるんです。刑が未確定の方や、少年院で事情のある子ども達もいて、その人たちが私たちの患者さんです。
もちろん、裁判が終わって実刑となり、有罪になった人たちも診るわけですが、彼らも人間なので病気になります。病気になって「痛い」とか「苦しい」とか言っている人を放っておけばいいのかというと、そうはいかないわけです。
こうした人道的な問題もありますが、なんと言っても、刑務所というのは工場で働くんです。元気に働いて、労働力として世の中に還元しなくてはいけません。「懲役何年」と言いますよね?
働いて、世の中にお返しするわけだから、働いてもらわないとお話にならないんです。
そのためには、働けるレベルまでの健康をキープしてあげないといけません。仕事ができなくて「痛い」「苦しい」と言ってただ寝ているだけとなると、その寝ているだけの費用も全部、皆さんの大切な「税金」から使われます。だから、元気に働いてもらった方が、皆さんの為にもなるんです。
彼らは懲役を全うしたあと、外に出ます。外に出た時に心身のどちらかが不健康だと、やっぱり働けないし社会で暮らせないんです。体と精神が健康でなければ、物を盗ったり、誰かを騙したり、暴れたり、悪い仲間のところに戻ったりして、また犯罪に近づいて行ってしまうんです。
ですから、心身の健康を教え直し、「外に出た時、なんとか一人で真っ当に暮らしていける人間に作り直したい」、という気持ちも我々にはあるんです。
受刑者の「血圧」「糖尿病」「アルコール性肝障害」「顔色」「体臭」が変化
上柳:おおたわ史絵先生の著書「プリズン・ドクター」(新潮新書)には、食にまつわるお話もあり、とても興味深かったです。
おおたわ:刑務所のご飯の話とかね。
上柳:血糖値が高いとか、高血圧とか、やはり生活習慣が乱れた人がたくさんいらっしゃるそうですね。
おおたわ:そうなんです。
上柳:そういう人たちが刑務所に入るとどうなるのか、ということが書かれていますね。
おおたわ:食生活と普段の生活習慣が改善されるので、糖尿病は良くなる、血圧は下がる、アルコール性肝障害の方は、もう、すぐに良くなります。アルコールが飲めない環境ですからね。喫煙者は、タバコが吸えないから肌の色もスーッと白くなる。あと、変な体臭が無くなります。
上柳:加齢臭とかですか?
おおたわ:そう、あれは脂肪が酸化した臭いなので。運動の時間も1日30分ありますから、刑務所にいると余分な脂肪が無くなるんです。
『食べ物が変わるだけで、人間はこんなに変わるのか……!』と私も驚きました。
●刑務所の朝ごはん一例
・麦飯
・みそ汁(具は、ほうれん草、しいたけ)
・お漬物のハリハリ漬け
・サバのみそ煮
●刑務所の昼ごはん一例
・エビとブロッコリーの炒め物
・大根サラダ
・ぜんざい
・コッペパン
上柳:ぜんざいや、コッペパンもあるんですね。
おおたわ:ちょっと炭水化物が過多なんですけど、これでも体が良くなります。間食ができない環境で、おやつがほとんど無いので。
上柳:塩分とか揚げ物とかも少なそうですね。
おおたわ:少ないです。塩分は1日に10グラムも無いです。6~8グラムほどです。だから血圧も良くなるし、糖尿病もかなり良くすることができます。
自炊がいかに健康か
上柳:受刑者の方々が、自ら食事を作る施設もあるそうですね。
おおたわ:施設によって違いますが、給食をとるところもあるし、炊事場みたいなものがあって、受刑者が自分たちで作る刑務所もあります。
上柳:自分たちで食事を作っていたところが、コロナ禍の影響で、集まって何かすることが難しい状況となり、仕出し弁当が来るようになって、“変化”があったそうですね。
おおたわ:仕出し弁当に変えたら、たった1か月でみんなが凄く血糖値が上がってしまったんです。もちろん、お弁当が悪いわけではなく、いつも作っていた刑務所のご飯が、いかに素晴らしかったかが証明されたわけです。
上柳:食生活が変わるだけで、そんなになるんですね。
おおたわ:食生活が人間の9割です。
上柳:食生活が本当に大切だと、図らずも分かったわけですね。
おおたわ:そうは思っていましたが、これほどなんだなと驚きました。
子どもと大人で違う「食物アレルギー」
おおたわ:大人の「10人に1人」は食物アレルギーを持っていると言われているので、悩んでいる方が結構いるんです。
上柳:子どもの食物アレルギーで非常に苦労しているお母さんがいますが、あれは治るものなのでしょうか? そして、大人になって急に食物アレルギーになったりするのでしょうか?
おおたわ:大人と子どもでは、アレルギーの原因物質が結構違います。
上柳:そうなんですか?
おおたわ:0歳児のデータで一番多いのが、「ニワトリの卵」。その次が「牛乳」、その次が「小麦」です。
これが大人になるとガラッと変わって、半数の人が「野菜」とか「果物」です。その次が「小麦」、その次が「エビやカニなどの甲殻類」、そして「スパイス」や「ナッツ」などが続きます。このように、子どもと大人ではぜんぜんアレルゲンが違います。
つまり、このデータによると、「子どものアレルギーは、大人になる時に治っている可能性が大いにある」ということです。
『この子は卵アレルギーだから一生、卵を食べられないのか……』と心配しているお母さんも多いと思いますが、食べられるようになる可能性は大いにあります。
大人になって発症した食物アレルギーの経験
上柳:今までアレルギーがなかった方が、大人になって急になることがあるそうですね。
おおたわ:実は私も急にアーモンドアレルギーになったんです。ナッツはわりと好きで、ナッツが入ったお菓子とかクッキーとかチョコレートを食べていたんですが、3年前に急にアーモンドアレルギーになりました。
上柳:アーモンドだけがダメなんですか?
おおたわ:アーモンドだけがダメなんですよ。
上柳:ナッツって、どれも似たように見えますが。
おおたわ:たしかに、アレルギー検査もナッツの種類で細分化されているので、違うんです。
私はある時、食後に急にお腹が痛く、気持ち悪くなり、おかしいなと思うことが続いたんです。
何を食べたかよく考えてみたら、アーモンドミルクがちょっと流行り始めて飲んでいたり、アーモンドが使われている洋菓子を食べた時だと気づいたんです。洋菓子に、パウダー状のアーモンドがよく使われているんですが、それを食べた時、ものすごく具合が悪くなるんです。
血液検査をしてみたら、アーモンドのアレルギー反応が振り切れるぐらい出たんです。
上柳:体調がおかしい時って、飲み過ぎちゃったかな? 最近あんまり寝てないからな? と思いがちなんですが……。
おおたわ:そうですね、食あたりかな? とか、そう思ってしまう方がいるかもしれませんね。
ただ私の場合は、どんどん悪くなって、アーモンドが入った1センチ四方のお菓子を食べただけで、冷や汗が出て、血圧が下がって、体中が冷たくなって、アナフィラキシーショックみたいになって、立てなくなったくらいで。だから、気が付くと悪くなっていることもありますね。
食物アレルギーの症状
上柳:自分が食物アレルギーかどうかは、どういうところで判断すればいいでしょうか?
おおたわ:決まったものを食べた後、必ず具合が悪くなったとき。例えば、「皮ふが痒くなる」とか、「のどが腫れる」と分かりやすいですが、人によっては消化管のアレルギーで、「お腹が痛くなる」とか「吐き気がする」という反応が出る時もあります。
こうしたような、食べた後に体調崩すことがあったら、食物アレルギーを十分考えた方がいいと思います。
刑務所の食生活を例に、バランスのいい食事で人間は驚くほど変わる、と語ったおおたわ先生。いろいろな食材を使ったり、調味料の量を調節できる自炊をすれば、血圧や血糖値が整うだけでなく、『何を食べたかな?』と思い出しやすく、食物アレルギーの原因も発見しやすい。時間や気持ちに余裕があるときは、体のためにも、料理をしてみてはいかがだろうか。
総合内科専門医・おおたわ史絵先生と、上柳昌彦アナウンサーの詳しいトーク内容は、「食は生きる力今朝も元気にいただきます」特設コーナーHP(https://www.1242.com/genki/index.html)から、いつでも聞くことが可能だ。
番組情報
「上柳昌彦 あさぼらけ」内で放送中。“食”の重要性を再認識し、「食でつくる健康」を追求し、食が持つ意味を考え、人生を楽しむためのより良い「食べもの」や「食事」の在り方を毎月それらに関わるエキスパートの方をお招きしお話をお伺い致します。
食の研究会HP:https://food.fordays.jp/