【ライター望月の駅弁膝栗毛】
平成30(2018)年3月30日、全通90周年を迎えた静岡と山梨を結ぶJR身延線。
この日、身延線では富士~甲府間で特別記念列車、特急「身延線全通90周年富士川」号が運行され、鉄道ファンや地元の皆さんで賑わいました。
身延線の線路横にある家で生まれ育った私としては、身延線は最も思い入れのある路線!
「駅弁膝栗毛」でも、この記念列車の模様をお伝えしていきます。
特別記念列車の発車に先立って、JR富士駅では出発式が行われました。
朝9時前、富士山・富士川・桜が描かれた専用ヘッドマークを掲げた373系電車の入線に合わせ、JR東海静岡支社長、富士・富士宮市長のお3方によってくす玉が割られました。
JR東海の鈴木静岡支社長は、90周年に当たって「10年後の100周年に向け、これまで以上に愛される身延線を作り上げたい」と未来に向けての決意を述べました。
373系電車による特急「身延線全通90周年富士川」の車内には、これまで身延線で活躍してきた車両の写真が載った記念のポスターが・・・。
身延線の看板列車・特急「ふじかわ」の前身、2枚窓の80系電車による準急「富士川」から、私も馴染みある165系・急行「富士川」、ワインレッドの115系、123系「富士ポニー」も・・・。
記念列車名も漢字表記の「富士川」で、準急・急行時代へのリスペクトが感じられます。
373系電車のリクライニングシートにも、「身延線全通90周年」の記念ロゴマークがプリントされた特別のヘッドカバーが用意されました。
また、各座席には、身延線沿線自治体の観光パンフレットなど一式も・・・。
入線から9時5分の発車までは5分ほど。
ドアが開くと、待ちかねた皆さんが一斉に乗り込んでいきました。
富士駅の1・2番ホームには、「富陽軒」の駅弁販売ブースが特設されました。
メインは何と言っても! この日発売された「身延線全通90周年記念弁当」(750円)。
特別列車の乗車でやって来た方も、記念駅弁の販売を知ると、皆さん手に取っていきます。
続々と駅弁が売れていく様子を見ると、何となく嬉しい気分になるものです。
特急「身延線全通90周年富士川」は、身延線の列車をはじめ静岡地区の運行拠点の1つになっている「富士運輸区」や富士駅の皆さんの見送りを受けて、定刻通り9:05に発車。
改めて、いかに多くの方が、列車の安全な運行に関わっているかが分かります。
列車は富士宮、身延、市川大門、東花輪の4駅停車で、2時間あまりで甲府に向かいます。
富士運輸区の車掌さんが1人1人の特急券を確かめながら検札していきます。
特別列車では、検札のスタンプを押してくれるのも1つの記念になりますね。
私は無人駅の沼久保駅を使うことが多かったので、車掌さんが車内を回る風景を見ていると、幼かった頃、旧型国電の車内で吊りかけモーターの音をBGMに、パチンパチンとパンチ穴を開けながら補充券を発行してもらった記憶が甦ります。
373系電車の乗務員室では、出発式にも参加した須藤・富士宮市長が自らマイクを握って、世界文化遺産・富士山や富士宮やきそばのPR中。
特急「身延線全通90周年富士川」の車内では、区間ごとに沿線の首長や観光関係の皆さんが乗り込んで、自分の町のPRタイムが設けられました。
さあ、身延線の車窓・最大の目玉「富士山」は見えますでしょうか?
西富士宮を出て潤井川の鉄橋を渡り、左に大きくカーブを描いて登り勾配に差しかかると、「身延線全通90周年富士川」号はいつもよりゆっくり走ってくれましたが・・・残念!
宮脇俊三先生の「最長片道切符の旅」で、「車窓の富士で一番よい」と評された富士山は、雲の中でした。
富士山がよく見えるのは冬の間ですので、暖かくなってくると、ちょっと厳しいですね。
身延線・西富士宮~沼久保間は、富士山と列車の組み合わせが美しい区間。
せっかく身延線に乗るなら、やっぱりこの区間を乗らないと!
現在、身延線に並行して高速道路の整備が進んでいますが、高速が全通しても、美しい富士山を間近に見ながら静岡~山梨間を移動できるのは、鉄道ならではの魅力。
「ふじかわ」ではA席に座ると、富士山のほか富士川・駿河湾の車窓もカバー出来ます。
富士宮からは、ひと足早く山梨県南部町、身延町、早川町の皆さんが車内を回ります。
南部町からは名産・南部茶、身延町からは身延山のイラストハンカチと西嶋和紙のメモ帳、早川町からは木製のコースターと缶バッジのプレゼントが・・・。
町長さんによるPRも、南部町は旬の筍、身延町はTVアニメ化された漫画「ゆるキャン△」、早川町は西山・奈良田の温泉などなど、バラエティに富んだものとなりました。
南部町の皆さんからペットボトルの「南部茶」を頂戴したところで、富士川を眺めながら富陽軒の「身延線全通90周年記念弁当」(750円)をいただくことにしましょう。
記念弁当の掛け紙を飾るのは、国鉄からJRにかけて、1980年代の身延線を彩った甲州のワインレッドに富士山の雪をイメージする白帯を巻いた115系電車です。
当時は郵便・荷物電車の「クモユニ143」を連結した編成で運行された列車もありました。
【お品書き】
・赤飯いなり
・ゆで落花生おこわいなり
・昆布入りいなり寿司 紅生姜のせ・鶏の赤ワイン焼、ししとう素揚
・富士市郷土料理 ピーナッツなます
・野菜とこんにゃくの旨煮
・かまぼこ
・玉子焼
面白いのは3つの味が楽しめるいなりずし!
お祝いの席にちなんだ赤飯、富陽軒の名物駅弁「竹取物語」ゆかりのゆで落花生入りおこわ、そして創業以来の伝統を誇る、昆布入り酢飯のいなりずしが顔をそろえました。
富陽軒が創業した大正10(1921)年は、身延線の前身・富士身延鉄道が身延開業した翌年。
身延線の役割が高まったからこそ生まれた富士の駅弁と言えましょう。
その創業時からの「いなりずし」をメインに据えた90周年記念駅弁、身延線メモリアルイヤーにふさわしい駅弁です。(5/6までの限定、新富士駅ホーム売店、富士駅・身延線ホーム売店、富士宮駅「ここんち」で販売。3日前までの予約がお薦め・0545-61-2835)
身延線の芝川から身延にかけては、車窓の富士川も楽しめます。
特に芝川駅を出てスグの釜口峡は、舟運時代の最大の難所。
また、稲子駅手前では、静岡・山梨の県境を前に大きく蛇行する風景が見られます。
特急「身延線全通90周年富士川」号は、いよいよ山梨県に入っていきます。
この続きはまた次回!
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/