【ライター望月の駅弁膝栗毛】
甲府駅で身延線と接続する、中央本線の新たな主役・E353系電車。
3月17日のダイヤ改正から、全ての「スーパーあずさ」が新型車両となりました。
普通車を含め全ての座席に電源コンセントが付き、背面テーブルも大型化。
振れが少なくなり、中央本線の旅がより快適にバージョンアップしました。
八ヶ岳をバックに走るE353系の姿も、なかなかイイですよね!
「身延線全通90周年富士川」号に乗車した後は、甲府から少し足を伸ばして韮崎へ・・・。
駅前には韮崎出身で、阪急電鉄の経営を通じて、日本の鉄道に1つのビジネスモデルを作り上げた小林一三(こばやし・いちぞう)を紹介する碑がありました。
実は山梨って、日本の鉄道を語る上では、決してスルーすることが出来ない県!
東武鉄道をはじめ様々な鉄道に関わり、「鉄道王」と呼ばれた根津嘉一郎や「地下鉄の父」と呼ばれた早川徳次も、山梨の出身なんですよね。
駅前からレンタサイクルで15分ほど、「韮崎市民俗資料館」に足を運ぶと、市街地から移築された「韮崎宿豪商の蔵屋敷」がありました。
実はこの建物、身延線の前身・富士身延鉄道を創設した小野金六の生家なのです。
蔵屋敷にもかかわらず、板塀に“教会”のような札が掲げられているのは、平成26(2014)年の朝の連続テレビ小説「花子とアン」のロケ地として使われたことによるものです。
改めて思うのは、昭和3(1928)年の段階で、民間の力で強い意志を持って、身延線を「全通」させたことが素晴らしいということ。
同時期、江の川沿いに国によって作られた三江線は、戦争で建設中断を余儀なくされ、全通した時にはモータリゼーションが進んでいて、90年まであと2年のこの春、廃線となりました。
やはり「線路は続く」こと、そして「地元が熱い思いを持ち続ける」ことで初めて、鉄道は本来の役割を全うできるのだと思います。
この地域の鉄道への思いは、車両の保存にも繋がっています。
民俗資料館からもほど近い韮崎市中央公園には、身延線や中央本線などの貨物列車として活躍したEF15形電気機関車が、しっかりと貨車と車掌車を率いて保存されています。
保存状態がいいとは言えませんが、往年の貨物列車を思い起こさせる風景は見事!
身延線の歴史を辿るなら、甲府から先、韮崎にも足を伸ばしたいところです。
多彩なアイディアで、日本の鉄道の“元気”を作ってきた山梨出身の実業家たち。
そんな歴史とシンクロさせながら、山梨を代表する名物駅弁の1つ、小淵沢駅弁「丸政」の「ふもとの駅弁 元気甲斐」(1,600円)をいただくと、より味わい深いかもしれません。
33年前の昭和60(1985)年、テレビ朝日系の番組「愛川欽也の探検レストラン」の企画から、東西の料亭をはじめ、多くの人のアイディアをギュッと詰め込んで誕生した駅弁です。
【お品書き】
(一の重)
・胡桃御飯
・蓮根の金平
・山女の甲州煮
・蕗と椎茸と人参の旨煮
・蒟蒻の味噌煮
・カリフラワーのレモン酢漬
・ぜんまいと揚げのごま酢和え
・セロリ―の粕漬(二の重)
・栗としめじのおこわ(銀杏、蓮根入り)
・アスパラの豚肉巻
・鶏の柚子味噌和え
・公魚(わかさぎ)の南蛮漬
・山牛蒡の味噌漬
・沢庵
綴じ紐をほどいて八ヶ岳連峰の山々が描かれた掛け紙を外し、懐かしい経木の折を1つずつ開いていく所作が楽しい!
経木とご飯・おかずが入り混じった「駅弁」らしい香りを、高原で深呼吸するように吸い込めば、自然と食欲が湧いてきて、お弁当が「元気かい?」と語りかけてくれるような気分になります。
胡桃や山菜など山梨らしい食材を、一流料亭の技で駅弁に仕上げた伝統は今も健在。
駅弁でもまた、日本の鉄道の“元気”は、山梨から作られているのかもしれません。
「スーパーあずさ」がE353系になったことで、「元気甲斐」の二段の折もしっかり背面テーブルに置くことが出来るようになりました。
ちょうど山梨は、桃の花が咲き誇る頃。
美しい車窓を眺めながら、鉄道ゆかりの人物の足跡や歴史ある路線を訪ねて、美味しい駅弁片手に春の鉄道旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/