【ライター望月の駅弁膝栗毛】
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立山連峰と富山市街、E7系・北陸新幹線「かがやき」
標高3,000m級の山々が連なる北アルプス・立山連峰。
この懐に抱かれた富山市は、人口40万人あまりを擁する富山県の県庁所在地です。
街の玄関・富山駅を出発して神通川を渡り、終着・金沢に向けてスパートに入ったのは、北陸新幹線の看板列車「かがやき」号。
新幹線の開業によって、東京~富山間は最速2時間8分で結ばれるようになりました。
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源 本社
この富山駅で駅弁を手掛けるのは、明治45(1912)年の発売以来、100年以上にわたって続く富山の名物駅弁「ますのすし」を製造・販売している「源(ますのすし本舗 源)」です。
「源」の本社は、富山駅から国道41号を通る富山地鉄バスで20分あまりの所にあります。
駅弁膝栗毛のシリーズ企画「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第11弾は、この「源」の本社に併設された工場で、「ますのすし(一重)」(1,400円)の製造工程に密着します。
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ますのすし(笹の葉)
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ますのすし(笹の葉)
入念な健康チェックと手洗いをして、厨房に入らせていただきました。
「ますのすし」の仕込みは、製造前日の午後から始まります。
職人さんが、曲げ物に1枚1枚、手作業で手早く、香り豊かな笹の葉を敷き詰めていきます。
ちなみにこの熊笹、毎年、源の幹部の方が良質なものを、直接買い付けているそうです。
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ますのすし(酢飯)
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ますのすし(酢飯)
1年を通して20℃に保たれている源の厨房。
ご飯は、美味しさへのこだわりから自家精米した富山県産米が使われています。
このご飯に、綿密に調合された酢が加えられ、「ますのすし」1つ分の酢飯に・・・。
そして、前日の仕込みで作られた、笹を敷き詰めた曲げ物に、これも1つ1つ手作業で、酢飯が手際よく詰められていきます。
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ますのすし(ます)
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ますのすし(ます)
ココに、仕込みが終わった「ます」が登場。
富山のみならず、全国各地向けに大量生産されている「ますのすし」ですが、酢飯の上への盛り付けも、実はちゃんと手作業で行われているんです!
もちろん、魚の塩加減なども長年のデータの蓄積を活かしながら、季節や気候によって、0.1~0.2グラムの単位で調整しており、当然、夏と冬では塩の量は変わってくるのだそうです。
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ますのすし
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ますのすし
ますが盛りつけられると、笹の葉を1枚1枚手で折り込んで木のふたを載せます。
これを厨房の天井に据えつけられた数珠つなぎの「ゴンドラ」へ・・・。
この「ゴンドラ」、ただのゴンドラではありません。
1つ1つに35.0~40.0kgの重さで、3分半~4分ほど負荷がかかるようになった「寿司を押す」機能が付いたゴンドラなのです。
数百はあろうかというゴンドラが、それぞれ負荷がかかるようになっていて、ぐるっと回れば、次の工程に受け渡せるようになっているのは興味深い!
訊けば、寿司職人さんの体力的な負担を軽減するために作られたのだそう。
ユニークなこの機械が、売店に「ますのすし」がズラリと並ぶことを可能にしているんですね!
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ますのすし
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ますのすし
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ますのすし(完成)
機械で押された「ますのすし」は、箸やナイフ、お手拭きなどのセットとあわせて、竹とオリジナル開発のゴムで、手際よく掛けられて、あのユニークな箱に収められていきます。
これも源の工夫によって生まれたもの。
今の箱の形状になったのは、昭和37(1962)年の「ますのすし」50周年のこと。
その翌年には藤づるを変更して、今のゴムバンドで留める形が生まれます。
従来の掛け紙をかけた「ますのすし」は、曲げ物が寿司の水分を吸って重くなるため、運ぶ人たちの負担になっていました。
一方、藤のつるで曲げ物を縛る作業には、職人さんが指をケガしやすい難点がありました。
様々な問題を乗り越えるべく、試行錯誤を繰り返しながら、手元に届く瞬間まで、ゴムの力を使い、絶妙な加減で“押され”続ける、今の「ますのすし」が生まれていった訳なんですね。
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源本社からの出荷風景
出来上がった「ますのすし」は、段ボールに詰められて、富山市内の源のお店をはじめ、全国各地へ出荷されていきます。
随所に機械は使われていますが、思いのほか「手作業」が多いのにびっくり!
それでいて1日最大2万5,000個から3万個が生産可能ということにも驚きです。
寿司作りに携わる皆さんの創意工夫の積み重ねと、駅弁への思いがギュッと詰まって・・・。
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ますのすし(一重)
大きくますが描かれたパッケージと共に、「ますのすし」は私たちの手元にやって来るのです!
この絵を描いたのは、文化勲章も受章された中川一政画伯(1893~1991)。
昭和40(1965)年、「ますのすし」のパッケージをリニューアルするにあたって、北陸にゆかりのあった中川画伯に絵を依頼したといいます。
決して今も色あせることの無い、いつまでも眺めていたくなるデザインです。
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ますのすし(一重)
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ますのすし(一重)
何度「ますのすし」をいただいても、おなじみのパッケージを開け、竹とゴムを外して、上蓋を取っていく動作1つ1つに、胸の高鳴りを覚えます。
そして木、笹、酢の香りが入り交じった「ますのすし」ならではの香りと共に、緑色の笹の中からパーッと光が差すように、鮮やかなますの身が現れた瞬間、猛烈な食欲に駆られます。
100年以上にわたって、世代を超えて受け継がれているこの感動。
いったい、この感動は、どのようにして生み出されているのか?
今週・来週と、富山駅「源」の様々な駅弁に密着していきます!
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/