【ライター望月の駅弁膝栗毛】
北陸新幹線には、4つの愛称の列車が走っています。
東京~金沢間を最速で結ぶ全車指定席の列車が「かがやき」。
東京~金沢間を中心に運行、長野(軽井沢)~金沢間でこまめに停まる列車が「はくたか」。
そして、東京~長野間の運行となる列車が「あさま」。
もう1つ、富山~金沢間を結ぶ列車には、「つるぎ」の愛称が付けられました。
かがやき・はくたか・あさま・つるぎのいずれも、かつて在来線特急として親しまれた愛称。
列車の愛称も、実は世代を超えて、受け継がれていくものなのかもしれません。
駅弁もまた、世代を超えて受け継がれていくもの。
これまで「駅弁膝栗毛」では、伊東「祇園」、小淵沢「丸政」、水戸「しまだフーズ」、出水「松栄軒」、長岡「池田屋」、米沢「新杵屋」、松阪「あら竹」、横浜「崎陽軒」、姫路「まねき食品」、修善寺「舞寿し」と10の駅弁屋さんの厨房(工場)にお邪魔してきましたが、今回の第11弾は、
「ますのすし」でおなじみ、富山駅弁「源」の本社に伺っています。
「源」の本社には、平成8(1996)年に作られた「ますのすし伝承館」があります。
伝承館は、昔ながらの「ますのすし」の作り方の技術を伝承していく場。
通常の「ますのすし」を製造していくラインとは別に、素材や手作りにこだわったプレミアムな「ますのすし」が作られており、一般の方でもガラス越しに見学することが出来ます。
使う「ます」も、日本海北部で獲れた3kg以上のサクラマスに限定されています。
伝承館で「ますのすし」を作ることが出来るのは、源の職人さんの中でも、特に熟練の方。
源に160人いる寿司職人さんの中で、伝承館を任される方はわずか2人しかいません。
サクラマスの肉の繊維を一瞬で見極めて、傷つけないようにスッと包丁を入れてさばきます。
切り身は、ピンセットを使いながら、1本1本手作業で、骨を残さず除去。
そして、肉の脂のノリや気候に合わせて、最適な量の塩を振っていきます。
曲げ物に1枚1枚すき間なく、笹の葉を敷き詰めていく作業は、通常の「ますのすし」と同じ 。
もちろん、あっという間に敷き詰めていきます。
通常の「ますのすし」に使われる酢飯は300g。
職人さんは、この300gの量のご飯を、肌感覚でしっかり身に付けていて、サッと片手で取って秤で確認しながら、曲げ物に敷かれた笹の上に載せていきます。
そして、「ますのすし伝承館」のハイライトが、さばかれたサクラマスを酢に漬ける瞬間!
切り身の鮮やかなサーモンピンクが、スーッと淡い紅色に変わっていくのです。
ますを酢から引き上げるタイミングは、職人さんの経験と勘がモノをいいます。
遅からず、早からず・・・熟練の技がここにあるんですね。
もしも見学時に、このシーンに出逢えたらラッキーですよ!
さあ、いよいよさくらますの切り身が、1枚1枚と酢飯の上に載せられていきます。
工程は通常の「ますのすし」と同じですが、よりプレミア感のある食材が使われていることもあって、酢の香りとさくらますの香りと共に、早くも食欲がそそられるところ・・・。
そのままでも十分にイケそうですが、さらにここへ笹の葉が上から折りこまれて、笹の香りと一緒にます・酢飯の美味しさがギュッと閉じ込められていくのです。
さらに、曲げ物のふたが閉じられて、ココに木の香りが加わります。
そして、伝承館で作られるますのすしでは、昔ながらの自然の石が載せられ、通常の「ますのすし」と同じように、およそ4分にわたって押されます。
昔ながらの「ますのすし」を今に伝えるために、ここまで一切妥協無しの手作業。
さあ、このようにして出来上がってきたのが・・・?
「伝承館 ますのすし」(2,700円)です。
重厚な趣ある箱を真ん中から開けると、大事に大事に守られた曲げ物が現れました。
ちなみに箱の裏面には、実際に作った職人さんの名前が、しっかりと印字されています。
販売は1日40個限定、平成27(2015)年の北陸新幹線開業以降は、富山駅改札外にある「源」の売店でも1日数個(1~4個)のみですが販売があります。
実は去年(2017年)は、この「伝承館 ますのすし」に適したサクラマスが不漁だったため、製造をすることが出来ず、今年(2018年)、2年ぶりに復活を果たしました。
このニュースが報じられると、地元の皆さんをはじめ多くの方が、「伝承館」で作られる商品を夏のお中元として買い求められたといいます。
富山ツウなら、やっぱり予約してでも買い求めたいプレミアムな「ますのすし」です。
「ますのすし伝承館」で使われている出刃包丁と柳刃包丁。
熟練の職人さんは、その日の作業が終わると、しっかり砥いで、次の日に備えます。
その作業を繰り返すことで、使いこまれた包丁は、どんどん細くなっていきます。
この包丁の技術はもちろん、食材の取扱いや様々な見識も含め、調理長が認めた職人さんだけが、伝承館に立つことが許されるといいます。
包丁を通じて、1つ1つに職人さんの魂が注ぎ込まれている「伝承館ますのすし」。
富山を訪れた折には、ぜひ一度、自分自身の目で「ますのすし」の伝統を受け継ぐ職人さんの技をご覧になってみてはいかがでしょうか。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/