【ライター望月の駅弁膝栗毛】
平成22(2010)年の開業から8年となる、東北新幹線・七戸十和田駅。
駅のそばには大きな商業施設と、国道4号沿いに道の駅がある新幹線単独駅です。
全線開業に39年を要した東北新幹線でしたが、もう少し開業が早ければ、七戸と在来線(現・青い森鉄道)の野辺地駅を結んでいた「南部縦貫鉄道」が活かされたのかも・・・。
実際には平成9(1997)年に運行休止、平成14(2002)年には廃線となってしまいました。
七戸十和田と野辺地が鉄道で繋がっていれば、野辺地からはJR大湊線が接続。
さらに、大湊線・下北駅からは、平成13(2001)年3月まで、旧国鉄大畑線を引き継いだ下北交通が、下北半島の大畑まで伸びていました。
この路線は、さらにその先・大間(おおま)までの延伸工事が行われておりましたが、第二次世界大戦の戦況悪化で工事は中止。
今も遺構の一部が残っており、風間浦村の下風呂温泉では遊歩道として整備されています。
全ては“たられば”の話ですが、東北新幹線の開業まで南部縦貫鉄道、下北交通が持ちこたえていたら、下北半島でもっと鉄道旅が楽しめましたし、大間線が完成していたら、北海道新幹線が下北半島・函館駅経由だった可能性も???
そんな歴史のあやともいえる事情を探っていくのもまた、鉄道旅の楽しみ方の1つですよね。
そんな“幻の大間線”の遺構が残る下風呂温泉。
温泉街には「大湯」と「新湯」の2つの「共同浴場」があります。
最も古いのが「大湯」で、入口の券売機でプラスチック製の入浴券を買って入ります。
今回は温泉街で共同浴場の集約計画があると報じられたこともあり、足を伸ばしました。
実は東京から半日かけても足を運ぶ価値のある風呂がココにはあります。
下北のヒバで作られた湯殿と浴槽に注がれるのは、硫黄系の香りたっぷりの白いお湯。
56.5℃、ph2.17、成分総計4,266mg/kg、泉質は酸性―ナトリウムー塩化物・硫酸塩泉です。
お湯の熱さは、手前が「普通」、奥が「熱い」となっており、特に奥はかなり熱い!!
でも、下風呂でイカ漁などに出る漁師さんは、海から上がると「熱い」お湯に浸かるのだとか。
夏の下北の旅は、吸盤で下を吸われる透明な「いかさし」、剥きたての「うに」と、この地元の暮らしが感じられる風情いっぱいの共同浴場に入らないと始まらないというものです。
昭和の文豪・井上靖が下風呂温泉で「海峡」の最終章を執筆したころと比べれば、はるかに東京から『近く』なったとはいえ、正直、足を運びにくいと話す人は多いもの。
その意味では、プチ青森体験が出来る駅弁は、有難い存在なのかもしれません。
八戸駅弁・吉田屋の「うにとウニと雲丹 味くらべ弁当」(1,180円)は、新幹線八戸開業15年の「記念駅弁」として登場し、現在は包装が少し変わってレギュラー化しています。
【お品書き】
・うにのすき焼き味玉子とじ
・うにのあんかけイクラのせ
・うにのトマトクリームソース
・醤油風味ご飯
・ポテトサラダ
・厚焼き玉子
・煮物(椎茸、人参)
・レンコン酢漬け
・しば漬け
・野沢菜辛子漬
和風のうにのすき焼き玉子とじ 、濃厚なうにのあんかけイクラのせ、さわやか洋風のうにのトマトクリームソースという3つの味が楽しめる“うにづくし”駅弁。
私自身も、下北半島の佐井で「ウニの殻むき」を体験したことがありますが、1つ1つ手仕事かつ、とんでもないくらいの丁寧さが求められる作業なんですよね。
その労力を鑑みれば、ホントに申し訳ないくらいの価格帯で駅弁としていただくことが出来ることに感謝の気持ちが生まれます。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/