【ライター望月の駅弁膝栗毛】
昭和57(1982)年、大宮~盛岡間で開業した東北新幹線。
85年には上野、91年には東京まで開業、平成22(2010)年に新青森まで全通しました。
そんな東北新幹線・最大の途中駅と言ってもいい仙台の駅弁屋さん「株式会社こばやし」。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第12弾は、株式会社こばやしの小林蒼生(こばやし・しげお)代表取締役にお話を伺っています。
今回は、鉄道の高速化と駅弁との関係について…。
―東北新幹線が通って、やっぱり仙台の駅弁は変わりましたか?
実は当時、(新幹線の開業で、仙台の)駅弁は無くなる…と思っていました。
それまで上野~仙台間は、特急「ひばり」でおよそ4時間だったものが、一気に2時間を切ってしまったわけですから、とても悲観的な見方をしていました。
ところがどっこい時間がかからなくなった分、首都圏やさらに西の方からのお客さまがドン! と、増えることになったんです。
倍どころじゃありません!
改めて「新幹線」という大量輸送高速鉄道の威力を実感することになりました。
―新幹線もどんどん高速化が進んでいますよね?私の持論として、駅弁には「100分の法則」があります。
乗車時間が1時間40分を切ってしまうと、駅弁は売れなくなってしまうんです。
その意味では、仙台は本当にギリギリの場所です。
東日本大震災では、東北新幹線も被害を受けてしまい、復旧してからも徐行運転を強いられ、東京~仙台間が2時間30分かかったことがありました。
じつはこのとき、車内販売がものすごくよく売れたんです。―新幹線が速すぎても、駅弁は売れないんですか?
利便性と我々の商売とは、ちょっと相反するものがあります。
駅弁は、乗車時間が長ければ長いほど、よく売れるものなんです。
とはいえ、1度「はやぶさ」の1時間半に慣れてしまうと、もしも2時間30分もかかったら、お客さまに何を言われるか分かんないですよね。
それでいて、停まる列車の本数が大きく売れ行きを左右します。
距離はあって、乗車時間が長くても、こんどは列車本数が少ないと厳しくなってしまうんです。
―この状況を小林社長は、どのように打開されて来ていますか?まず、単純に駅弁だけではやっていけないと、肚をくくりました。
そこで「駅弁」という商品を、駅だけで売るという発想を変えて、いかに駅以外の所で売るかということにポイントを絞って、マーケットの拡大をめざしました。
「楽天生命パーク宮城」で販売したり、女子ゴルフの大会会場で売ったり、町内会の皆さんの敬老会や慰労会、運動会などにお届けしたり…といった形で、地元の皆さんへの密着度を高める取り組みも並行して行っていて、販路のチャンネルを増やす努力もしています。
その最たるものが、デパートにおける駅弁大会だと思います。―「拡大する」とは言っても、一筋縄ではいかないですよね?
マーケットを拡大していく上では、お客さまに絶対的に支持されるような弁当作りをして行く必要があります。
牛たんだけでなく仙台牛を入れたり、米にこだわった弁当を開発するなど、色々な切り口で、お客さまの要求に対してきめ細やかに対応できる弁当作りを心がけています。
―どのように、きめ細かい対応をされているんですか?例えば、仙台に来られる修学旅行生の弁当も手掛けています。
北海道・東北地方の児童・生徒さんにとって、仙台は修学旅行の定番なんです。
じつは50人くらいの集団になると、1割くらいは食べ物のアレルギーを持ったお子さんがいらっしゃるので、事前に情報を集めて、1人1人NGの食材を外した弁当を作っています。
これからは、ムスリムの皆さんにハラール弁当を準備していて、その設備も計画しています。
仙台はまだまだ海外からのお客さまは少ないですが、マレーシア、シンガポール、インドネシアなど、東南アジア諸国の皆さんが訪れるようになっていて、今後増加が期待されます。
昔と同じ弁当をずっと作り続けていればいい時代から、どんどん変わってきているんです。
(株式会社こばやし・小林蒼生代表取締役インタビュー、つづく)
鉄道の高速化と共に、地域密着化を進めているという「こばやし」。
駅弁のなかでも地域密着を謳っているのが、「むすび丸弁当」(900円)です。
「むすび丸」は、平成19(2007)年の仙台・宮城デスティネーションキャンペーンで誕生。
いまは宮城県の観光キャラクターとなったこの「むすび丸」をテーマに、宮城県産の食材を使って作られており、リニューアルを重ねながら、バージョンアップされています。
【お品書き】
・むすび丸(赤…雑穀米・海苔・赤パプリカ・ブラックビーンズ)
・むすび丸(黄…白飯・海苔・黄パプリカ・ブラックビーンズ)
・大根蓑寿司
・牛肉甘辛煮
・蓮根と人参の金平
・絹さや
・大葉はさみ揚げ
・厚焼玉子
・三陸銀鮭酒粕漬焼き
・笹かまぼこ
・みちのく鶏味噌焼き
・仙台長茄子漬け
・紅大根
・仙台駄菓子(仙台味噌飴)
(米は宮城県産環境保全米ひとめぼれ)
ふたを開けると、赤と黄色の「むすび丸(おむすび)」が2個!
全国の駅弁のなかでも、随一の可愛らしい“キャラ弁”です。
宮城ならではのお米の美味しさを堪能しながら、三陸の銀鮭、笹かまをはじめ、デザートには仙台駄菓子まで、宮城の特産を少しずつ味わうことが出来ます。
東京までの1時間半を、より楽しい時間にしてくれそうです!
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/