【ライター望月の駅弁膝栗毛】
静岡~甲府間を身延線経由で結ぶ特急「ふじかわ」。
日中はほぼ2時間間隔で1日7往復が運行されています。
さらに、週末には臨時列車が1往復増便される日もあります。
1号車の指定席を取る場合は、由比~興津間の駿河湾、西富士宮~沼久保間の富士山、芝川~身延間の富士川が眺められる「A席」をチョイスするのがベターです。
特急「ふじかわ」として走っている373系電車は、朝夕、東海道本線の沼津~浜松間などで運行される有料定員制列車、「ホームライナー」としても活躍しています。
通勤タイプの車両が多い静岡地区にあって、ちょっとしたオアシスのような存在。
3両編成を2つ繋いだ6両で、東海道を駆け抜けて行く様子は、平成19(2007)年まで、東京~静岡間で走っていた特急「東海」の記憶を思い起こさせてくれました。
特急「東海」の前身、平成8(1996)年まで走っていた165系電車の急行「東海」は、私の駅弁旅の原点のような存在です。
富士駅4番ホームにあった立食そば店併設の駅弁売場で「牛べんとう」を買って乗り込み、包装を開けると、アルミ鍋に入った白いご飯の上にいっぱいの牛すき焼き風煮が…。
整然と並んだクロスシートで、重厚なモーター音に耳を傾けていただいた日が甦ります。
急行東海の165系電車は電気を集めるパンタグラフの部分が“低い屋根”となっており、そこだけのフラットな天井がお気に入りで、主に6号車ばかり選んで乗っていました。
磨りガラスの窓の向こうに見える、お隣・5号車のグリーン車の雰囲気も趣があったもの。
そんな急行「東海」でいただいた「牛べんとう」の記憶が思い出されると、いまも思わず手に取ってしまうのが、「富陽軒」の「牛すき弁当」(900円)です。
【おしながき】
・白飯
・牛肉すきやき風煮(国産牛使用)
・玉子焼き
・紅しょうが
白いご飯の上に、国産牛のすき焼き風煮が載ったシンプルな弁当。
おかずも玉子焼きと、付添の紅しょうがのみ。
容器がいまの仕様になっているほかは、かつての「牛べんとう」を彷彿とさせます。
特に“どなたにも好まれる、王道の味付け”という、すきやき風煮の味のしみ込み具合が、懐かしさと相まって、じんわりじんわりと想い出の扉を開けてくれました。
現在は原則、東海道新幹線・新富士駅での販売となっている「牛すき弁当」。
昔から急行列車で東海道を行き来したり、旧型国電時代から身延線の旅を楽しんだことがある方には、きっと懐かしさを憶えるに違いない駅弁です。
明治・大正から続く老舗駅弁屋さんが多い東海道本線・静岡地区の駅弁は、歴史の重みやひとりひとりの旅の思い出もまた、大事な「おかず」の1つではないかと思います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/