【ライター望月の駅弁膝栗毛】
令和2(2020)年も「ライター望月の駅弁膝栗毛」をよろしくお願いいたします。
新年最初は、全国の駅弁屋さんを訪ね、駅弁の製造過程とこだわりを伺っている特集企画「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第20弾をお届けします。
上越新幹線ではまだ少数派のE7系新幹線電車の「とき」に揺られて、またまた新潟へ。
今シーズンは12月に入ってもまだ、雪は少なめの新潟エリアです。
平成28(2016)年以来、「伊東」「小淵沢」「水戸」「出水」「長岡」「米沢」「松阪」「横浜」「姫路」「修善寺」「富山」「仙台」「一ノ関」「米沢」「山形」「郡山」「大館」「新津」と巡ってきた「駅弁屋さんの厨房ですよ!」シリーズ。
第20弾は、「株式会社新発田(しばた)三新軒」です。
新発田と社名に冠していますが、現在の本社はJR新津駅前の三新軒ビルにあります。
「新発田三新軒」は、新津駅弁の「三新軒」と調理場を共有しています。
本社そばの調理場では、左のラインで「三新軒」の駅弁、右のラインで「新発田三新軒」の駅弁が製造されています。
調理場は、各社の社風が出るので個人的にはちょっと面白いのですが、コチラはスタッフのみなさんの呼吸が合った印象を受ける、明るい雰囲気のなかで駅弁が作られています。
●東日本エリアでトップクラスの人気を誇る海鮮駅弁!
製造過程を見せていただくのは、大ヒット駅弁「えび千両ちらし」(1380円)。
「えび千両ちらし」は、平成14(2002)年、JR東日本の「大人の休日」キャンペーンの駅弁として誕生、今年(2020年)で18年を迎えます。
東日本エリアの駅弁人気投票「駅弁味の陣2017」では、見事1位の駅弁大将軍に…。
とても手間がかかっている駅弁と聞いていますが、果たしてどうでしょうか?
まずは寿司飯が盛られていきます。
「新発田三新軒」の寿司飯は、2種類のお米をブレンドして使用。
新潟産コシヒカリと、新潟産こしいぶきを半々にしていると言います。
コシヒカリだけでは、粘りが強すぎる寿司飯になってしまうため、シンプルにご飯の美味しさを追求するため、ブレンドを行っているのだそうです。
●1つ1つ手作業で作られる「えび千両ちらし」!
一方、隣の調理室では「えび千両ちらし」に使う、塩いかの一夜干しの仕込みが、1つずつ、全部手作業で行われています。
手間をかけて仕込まれた蒸しえび、うなぎの蒲焼き、こはだの薄切り〆め、塩いかの一夜干しは、昆布が敷かれた寿司飯の上に、これまた1つずつ手作業で載せられていきます。
4つの異なる食材を仕込み、全部手作業で載せていく…これは手間がかかっています。
そして、この駅弁の最大のポイント、出汁を入れて焼き上げられた厚焼き玉子の登場。
これも1つ1つ包丁で切り分けて、1つの折に4枚ずつ丁寧に載せていきます。
さらにその上に、むき海老のおぼろが、さじでパラパラっと振りかけられ、シートを挟んで、ようやく「えび千両ちらし」のふたが閉じられます。
すでにこの段階で、手にすると、ずしりとした重みを感じることができます。
割り箸とお手拭きが挟み込まれ、紙箱のなかに入れられ、ゴムひもが掛けられて完成!
ココまで手間をかける理由は、じつは「嬉しい誤算」なんだそう。
当初、JRから「高品質」な駅弁の依頼を受け、価格を1200円に設定したと言います。
ただ、当時の新潟では1200円の駅弁はあまり売れないので、その分、うんと手間をかけて1日10~20食作ってみたところから、少しずつヒットに繋がっていったそうです。
ちなみに「新発田三新軒」は、パートさんを入れても、全部で25名ほどの少数精鋭部隊。
この少人数で、新潟だけでなく、首都圏にも駅弁を送り出しています。
【おしながき】
・すし飯・・・新潟米の精進合わせ
・うなぎ・・・蒲焼きのたれ仕込み
・こはだ・・・薄切り〆、わさび醤油からめ
・蒸し海老・・・酢通し醤油からめ
・いか・・・塩いかの一夜干し
・厚焼き玉子・・・出汁入り
・海老・・・むき海老のおぼろ
・ガリ・・・甘酢漬け
●お礼状が続々届く駅弁「えび千両ちらし」!
最初は圧倒的に「厚焼き玉子」の印象ですが、2度、3度とリピートしていくと、玉子の下のえび、うなぎ、こはだ、いか、1つ1つにこだわりが感じられて、発見があります。
今回は改めて、塩いかの一夜干しを噛みしめ、その美味しさに気づくことができました。
ちなみに昆布を敷き詰めているのは、昔、販売していた「えび寿司」以来の伝統なんだそう。
でも、なぜ具材を隠すのか、新発田三新軒の伊田研一(いだ・けんいち)社長に伺いました。
―具材を「隠す」アイディアは、どこから出てきましたか?
「遊び心」ですね。
最初は悩みました。宣伝用の写真も、玉子焼きしか見えない写真しか撮れないんです。
でも、「お客様がいちばん楽しいのは何か」ということを考えて、「隠そう」ということになりました。
たぶん、この(玉子をめくるとたくさん具が現れてビックリする)つくりをしている駅弁は、他にはほとんどないのではないかと。
―「えび千両ちらし」、人気の理由はどこにあると分析されていますか?
「えび千両ちらし」の強みは、「美味しい」と「楽しい」を両立させたことにあると思います。
特に最近は、みなさん写真を撮って、SNS等に紹介していただくことが増えました。
昔は玉子のままアップされていましたが、いまは玉子を少しのけてアップする方が多いですね。
直接的なきっかけは、東京駅の「駅弁屋旨囲門」(注)に置かせてもらい、著名人の方にもお召し上がりいただいたことで、じわじわと人気に火が付いていったと感じています。
(注)駅弁屋旨囲門…「駅弁屋 祭」の前身の店舗。
―召し上がった方から「お礼状」が届くって、ホントですか?
「えび千両ちらし」の掛け紙にはハガキがあって、最初はお客様からお客様へ、ちょっとずつ薦めてくれたらいいなぁ…という気持ちで付けたものです。
でもいまは、ほとんどのハガキが、弊社に戻ってくるようになりました。
お客様が、切手を貼って、「えび千両ちらし」を召し上がった感想を送って下さるんですよ。
本当に嬉しい以外の何物でもありません。
お客様の手書きの文字を見ると、本当に言葉以上のものが伝わってくるんです。
ですので、送って下さった方には、私がお一人おひとりにお礼状を書いてお送りしています。
(株式会社新発田三新軒・伊田研一社長インタビュー、つづく)
いまや、新潟を代表する駅弁の1つに成長した「えび千両ちらし」。
この駅弁を開発した「新発田三新軒」とは、いったいどんな会社なのか?
“新発田”なのに、なぜ新津にあるのか?
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第20弾の新発田三新軒編、次回以降、じっくりと伊田社長にお話を伺ってまいります。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/