「ブラック焼きそば」が糸魚川の名物グルメになった理由
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
俗説なのか、偶然の一致なのか?「黒い食材は体にいい」という話があります。
思いつくままにあげてみると、海藻のひじき、黒豆、黒酢、黒ごま……体によさそうなものがいっぱい! ダイエットにもいいそうです。
世界的にも珍しいヒスイの産地、新潟県糸魚川市は、景勝地親不知で知られ、ユネスコの世界ジオパークにも指定されている街です。
ここで有名な食べものと言えば、「焼きそば」。ただの焼きそばではありません。見た目は真っ黒で、ガツンとインパクトの強い『ブラック焼きそば』なのです。
考案したのは「月徳飯店」の月岡浩徳さん。3代目の社長さんです。
月岡さんは地元の高校を卒業した後、東京の大学へ進学。卒業後は9年間、横浜で修業しました。それから地元に帰ったとき、地域振興会や観光協会の言葉を聞いて、大いに発奮したと言います。
「糸魚川にはグルメがない」「何か、突出した味が欲しいもんだ」
これは、月岡さんの料理人としての使命感に火をつける言葉でした。
「糸魚川には、うまい魚がある。米だってうまい。なのにどうして、うまい料理がないんだろう? よし、自分がつくってやろうじゃないか!」
いまから10年前の決心でした。月岡さんが最初に目を付けたのは、日本海の「甘エビ」でした。
「ところが甘エビというのは、刺身やちらし寿司にしか使えないんです。火を通すとプリプリ感がなくなってしまう。中国料理で『甘エビの踊り食い』というメニューも考えました。ところが、海水浴やお盆の帰省客で賑わう7月~8月は、甘エビの禁漁期。あきらめました」
次に考えたのは、「アンコウ」だったと言います。
「糸魚川は、キアンコウといういい魚がとれるんです。でも、うまいのは冬場だけ。前菜、チリソース、鍋物、いろいろ考えましたが、安定した食材が獲れないということで、これもあきらめたんです」
意気に燃える料理人・月岡浩徳さんは、ここでトンネルに入ってしまいました。
甘エビもダメ、アンコウもダメ。こんな月岡さんに見えた一すじの光明は、10年前、大漁に次ぐ大漁だった「イカ」でした。月岡さんは振り返ります。
「イカだけは、どうしようもないくらい獲れたんです。冬はヤリイカ、3・4・5月はホタルイカ、秋はアオリイカやコウイカ、そして1年中獲れるマイカ……。これで糸魚川名物をつくろう、と思いました」
イタリア料理に、イカスミとオリーブオイル、ニンニクでつくるパスタがあることは知っていました。
「そうではなくて、中華麺と特製ソースと、糸魚川のイカだけでつくってみよう」
何度かの試行錯誤の末に完成した「ブラック焼きそば」でしたが、試食会を兼ねたキャンペーンで、来場者の最初の反応は、芳しいものではありませんでした。見た目の真っ黒なインパクトに戸惑う人が多かったようです。
「やっぱりダメか……」とあきらめかけたそのとき、「キャハハ」と明るい笑い声が聞こえたそうです。見れば、会場に来ていた女子高生たちが、イカスミで真っ黒に染まった口元がおかしいと、お互いの顔を写真に撮り合っていました。
「ああいう若い世代にウケることが大切なんだね」と、観光協会の局長も満足そうだったと言います。
「月徳飯店」のブラック焼きそばは、真っ黒な麺を覆うように薄焼き卵を載せて、マヨネーズとケチャップを網目状にあしらい、見た目もおしゃれな仕上がり。黒い麺をひと口すすると、正真正銘焼きそばの味です。
イカスミの風味も旨い。イカの身や薄焼き卵、卵の上にはイカせんべいのカケラ、紅ショウガや豆板醤も味にアクセントを添えてくれます。
月岡さんはこの「ブラック焼きそば」を、「糸魚川うまいもん会」の加盟店・16店のメニューで共有しています。条件は3つ。
(1)中華麺を使う
(2)イカスミを使う
(3)地元のイカを使う
その他は、それぞれの店の創意と工夫を凝らせばよしとされています。
月岡さんは東京のテレビで、全国の有名焼きそば店との共演も果たしました。秋田県の横手焼きそば、静岡県の富士宮焼きそばなど、名だたる名店ばかり。
そのとき、福島県の会津カレー焼きそばの担当者と、1杯酌み交わす機会があったと言います。そこで月岡さんは、大切な話を聞いたそうです。
「富士宮焼きそばは70年、会津カレー焼きそばは50年。1つの料理が街の文化になるためには、長い時間がかかるんです」
月岡さんは言います。
「この言葉を胸に、これからも細く長く、フライパンをふるいたいですね」
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