あけの語りびと

戦争をさまざまな視点で知る「ひみつ基地ミュージアム」

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戦争をさまざまな視点で知る「ひみつ基地ミュージアム」

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

戦争をさまざまな視点で知る「ひみつ基地ミュージアム」

「山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム」外観

熊本県・人吉盆地。山々に囲まれたこの地に、2年前、「錦町立 人吉海軍航空基地資料館」がオープンしました。愛称は「山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム」です。

副館長をされているのは、平本真子さん・41歳。熊本市に生まれ、15年以上デザイナーをされていましたが、4年前の10月、球磨郡錦町に2人のお子さんを連れて移り住みました。

「熊本に生まれ育ったのに、錦町のことをまったく知らなかったんです。〝地域おこし協力隊〟として、この町に赴任したのですが、大自然に囲まれており、子育てするには最高の環境です。ただ、他の地方と同じく、町を出た若者が戻って来ないんです。地域おこし協力隊として、何か目玉となる地域資源はないかと探していたら、まさに〝ひみつ基地〟を見つけたんです」

戦争をさまざまな視点で知る「ひみつ基地ミュージアム」

ミュージアムスタッフ(2020年正月撮影) 前列一番左が平本さん

平本さんは地元のお年寄りから話を聞き、かつてこの地に海軍の航空基地があったことを知ります。昭和18年、全長1500メートルの滑走路を有する中継基地として整備されました。その後、予科練の教育施設になり、〝赤とんぼ〟と呼ばれた練習機が人吉盆地の上空を飛び交っていました。

昭和20年に入ると、本土決戦に備えた補給基地や、さらに米軍が上陸した際の地上戦を想定し、地下壕を掘っていました。

「もし戦争が長引けば、九州は地上戦となり、硫黄島のように地下壕に立てこもって、ゲリラ戦になっていたかも知れませんね。地元の人たちは地下壕の存在を知っていたんですが、家の裏にあるような〝防空壕〟くらいにしか思わず、放置されていました。当時を知る人の話では、軍と住民が総出でツルハシを持ち、朝から晩まで手掘りしたそうです。総延長が4キロもあります。この町の地下で、歴史遺産が眠り続けていたんです」

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魚雷調整場(写真は航空魚雷の実物大模型)

戦争を語り、平和の尊さを訴える場として活用しようと、資料館の開設が決まったとき……平本さんは子供のころの記憶が蘇りました。

「小中学校の修学旅行で、広島平和記念資料館や長崎原爆資料館を見学したんですが、あまりにも悲惨な写真や展示物を見てショックを受け、また出かけたいという気持ちになれなかったんです」

なぜ平和教育は、「悲惨さ」という視点だけで戦争を語るのだろうか。もっとさまざまな視点から戦争を知ることはできないのか……。そう思った平本さんは、地元で戦争体験をされた方や、その遺族の方に話を聞いて回りました。

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元一等水兵の方が旗を返還した当時の新聞記事

すると、地元の人吉で、元一等水兵だった方の遺族から、こんな話を聞き出します。

太平洋戦争が始まった昭和16年(1941年)12月8日、その一等水兵の方は、駆逐艦「栗」の乗組員でした。上海沖を哨戒していたとき、アメリカの輸送船を発見して拿捕すると、すぐにマストの星条旗を下ろしました。

手縫いだったその星条旗を見て、「たとえ敵国の旗だろうと焼き捨てるわけにはいかない」と思い、『寄せ書き 日の丸』と一緒に畳んで保管。戦時中、このことは誰にも話さず、大切にしていました。

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「24年ぶり故国へ」の見出しが

終戦を迎えても打ち明けられず、実家の人吉に持ち帰ります。戦後20年が経った昭和40年、息子さんが結婚したこともあって、福岡の領事館に事情を話し、星条旗を返還しました。

すると、首席領事から「国を代表する旗を大事にするのはどの国も同じ、嬉しい話です」との言葉をかけられ、24年の肩の荷がやっと下りたそうです。

「私は思うんです。戦争は世界を灰色にします。だけど、その灰色の下には『人として』強い意志を持ち、自分の想いで行動した人たちやエピソードもあったはずだと……。このミュージアムでは、そんな側面も展示したいと思っています」

戦争をさまざまな視点で知る「ひみつ基地ミュージアム」

ガイドツアーの様子

「ひみつ基地ミュージアム」というと、「遊園地みたいだ」「戦争を賛美している」といった批判の声もありました。それでも、このネーミングに惹かれて見学に来るご家族もいて、「『来てよかった』と言われるのがいちばん嬉しい」と語ります。

オープンして2年。現在は新館を増築中で、修学旅行の受け入れも考えています。また本年度(2020年)中には、予科練の練習機〝赤とんぼ〟の実物大の模型を展示することになっています。副館長・平本さんの奮闘記は、まだまだ続きます。

(*お詫びと訂正)

文中にて、資料館副館長の平本真子さんが「人吉海軍航空基地跡」を発見したかのように受け取れる文章になっていますが、正確には「人吉海軍航空隊を顕彰する有志の会」の福田晃市様、金山充様、新堀徳人様の調査研究により明らかになりました。ご関係者の方々には大変ご迷惑をおかけいたしました。訂正してお詫びいたします。

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資料館内部の様子

■山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム
(錦町立人吉海軍航空基地資料館)

住所:熊本県球磨郡錦町木上西2-107
電話:0966-28-8080
https://132base.jp

営業時間:10:00~16:00(最終入館 16:00)
休館日:火曜日、年末年始
入館料:大人(高校生以上)500円/小中学生300円 ※小学生未満は無料

基地の歴史に関するパネルや隊員の遺品、零戦の残骸などを展示。その他、地下兵舎壕、地下作戦室・無線室が見学できるオプションツアーも人気。

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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