【ライター望月の駅弁膝栗毛】
東京・新宿と、信州・松本の間を、中央本線・篠ノ井線経由で結ぶ特急「あずさ」号。
昭和41(1966)年12月12日の運行開始以来、まもなく55年目に入ります。
近年まで「スーパーあずさ」「あずさ」の2本立てで運行されていましたが、平成31(2019)年3月のダイヤ改正からは、再び「あずさ」の愛称に統一されました。
最速の「あずさ18号」は途中、茅野・甲府・八王子に停まり、2時間23分で走ります。
(参考)JR東日本ホームページほか
長野県の中信地方にあって、人口23万人あまりを擁する松本市。
国宝・松本城があり、北アルプス・上高地・安曇野などへの玄関口でもあります。
松本駅は、明治35(1902)年、篠ノ井線・西条~松本間の開通と共に開業しました。
新宿からの特急「あずさ」、名古屋からの特急「しなの」が直通する他、大糸線が分岐、アルピコ交通上高地線が乗り入れる、信州随一の交通の要衝となっています。
この松本駅の駅弁を手掛けるのが「イイダヤ軒」。
松本駅前にそびえる「ホテル飯田屋」の一角には、ちょっぴりレトロな雰囲気もある直営の駅そば屋があって、多くの方が出入りしている様子が伺えます。
イイダヤ軒のロゴと共に燦然と輝くのは、「大正九年創業」の文字。
そう、イイダヤ軒は、今年(2020年)で創業100年の節目を迎えた駅弁屋さんなのです。
現在は「ホテル飯田屋」となっている飯田屋旅館の2代目の方が、大正9(1920)年6月、当時の鉄道省から承認を受けて駅弁に参入。
昭和24(1949)年、旅館から弁当部が独立して生まれたのが、「イイダヤ軒」です。
いまでは松本駅の駅弁はもちろん、駅ビル・MIDORIのそば店のほか、松本駅前と篠ノ井線・南松本駅、村井駅で「信州松本・駅そばイイダヤ軒」を手掛けています。
イイダヤ軒の最新作駅弁は、令和元(2019)年12月に発売された「信州アルプス牛 牛すき重」(1300円)です。
黒毛和牛とホルスタイン種を掛け合わせて生まれたご当地ブランド・信州アルプス牛。
和牛の“霜降り”と乳牛の成長の早さを活かし、手ごろな価格帯で美味しさを創出。
この信州ならではの牛肉を、すき焼き風に仕上げた駅弁だと言います。
(参考)JA全農長野ホームページ
【おしながき】
・白飯(安曇野産米)
・信州アルプス牛のすき煮
・えのき茸の天ぷら(季節の野菜)
・味玉子
・松本の老舗漬物店の梅わさび
スリーブ式の包装を外すと、ご飯の上に一面に敷かれたすきやき風の信州アルプス牛!
さらに、真ん中にえのきの天ぷらが載っているのが、興味深いところです。
イイダヤ軒によると、この部分は“季節の野菜”として、信州の旬の野菜を使用しており、春は菜の花、夏はオクラが載ることもあるそうで、季節ごとにリピートしたくなる仕掛けが!
駅そばのそばつゆに漬け込んだ味玉子も、駅弁屋さんならではの味が楽しめます。
現行ダイヤで、松本駅の上り最終新宿行・20:10発の特急あずさは、何と60号。
あずさは、国鉄時代から急行「アルプス」を吸収しながら成長を続け、いまでは甲府発着の「かいじ」号と合わせて、1日30往復の定期列車が運行されるまでになりました。
急行「アルプス」は残念ながら平成14(2002)年に運行を終了しましたが、松本駅で長年、あずさ・アルプスの発着を見守り、車内販売を彩ってきたのが「イイダヤ軒」の駅弁。
100年続く歴史の重みを感じながら、駅弁と共に楽しみたい信濃路の鉄道旅です。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/