【ライター望月の駅弁膝栗毛】
ぶどう畑をバックに、終着・甲府に向けてラストスパートをかける身延線の特急「ふじかわ」。
身延線の甲府~鰍沢口間は、区間列車もあり、毎時1~2本の列車が運行されています。
この身延線・甲府口が1年で最も賑わうのが、「神明の花火」が開催される毎年8月7日。
会場まで身延線・市川大門駅から徒歩10分ということもあり、例年、定期列車の増結や、南甲府~市川大門間などで臨時列車も運行されています。
さらに毎年、8月15日には、山梨県南部町で「南部の火祭り」が開催されます。
旧盆の送り火に由来する行事ですが、じつは、意外に“面白い”!
夕方6時半過ぎ、オープニングを飾るのが、子供たちによる「投松明(なげたいまつ)」。
火のついた「松明」をぐるぐると回して、「蜂の巣」と呼ばれる藁で編んだ籠に投げ上げます。
火の玉の“玉入れ”のような風習、昔から富士川流域では当たり前に行われてきました。
「灯篭流し」でしばしクールダウンしたのち、夜7時45分過ぎ、「大松明」に点火。
南部町とその周辺の寺院から集めた塔婆を積み重ねたもので、およそ3万本になるそう。
身延山が近いこのエリアは、日蓮宗のお寺が多いので、「南無妙法蓮華経」の読経と共に燃やされていきます。
暗闇のなかに、松明だけが燃え盛る様子を多くの観客が静かに見つめ、ゆく夏を惜しみます。
いよいよ夜8時、富士川の両岸、およそ2キロにわたって「108」の薪の山に一斉点火。
私自身は、小さい頃、この点火した様子をたまたま乗り合わせた身延線の列車から眺めてびっくりしたことがあるのですが、改めて眺めてもこの景色は素晴らしい!
しかも、火勢が強くなると、夜空を焦がすような様相となり、108の大きな炎から遠く離れた土手の上にいても、リアルな熱さが感じられて、祭りは最高潮へと盛り上がっていきます。
その燃え盛る炎をバックに始まるのが、トリを飾る「花火大会」!
こんなに炎で埋め尽くされた花火大会は、他に見たことがありません。
「ただ、打ち上げられてきれい」という花火大会ではなく、送り火と共に御先祖さまへ思いを馳せながら、花火の華やかさと儚さに、自らの人生を重ねることができる花火大会。
まさに“夏の終わり”にふさわしい伝統行事です。
さて、この夏、小淵沢・甲府・茅野の駅弁を手掛ける「丸政」からドドーン! と打ち上がった新作駅弁と言えば、「八ヶ岳高原の鶏めし」(980円)。
元々、小淵沢にも鶏めし駅弁はありますが、ポップな雰囲気の紙蓋となって、山梨のご当地ブランド鶏「甲斐味鶏使用」と大きく謳われています。
近年、スリープ式の包装が増えるなか、新作でも紐綴じの包装は懐かしい気分になれますね。
【おしながき】
・茶飯
・甲斐味鶏の照り焼き
・鶏そぼろ
・海苔
・錦糸玉子
・蓮根の金平
・山菜煮
・人参煮
・桜漬け
茶飯の上に海苔と錦糸玉子、その上に丸政の技が詰まった鶏の照り焼きとそぼろが一面に載っていて、田舎風の煮物と山菜、香の物が脇を固めます。
特に鶏そぼろのフワッとした食感と程よい味つけが、食欲をそそってくれるように感じました。
「丸政」によると、7月下旬、平日の小淵沢駅でも早々に完売するなど出足も好調とのこと。
ボリューム感と900円台のお値打ち感が、人気の秘密のようです。
甲府~静岡間は、特急「ふじかわ」号で2時間10~20分ほど。
こちらも車内販売はありませんので、甲府駅から乗車の際は、駅弁購入が必須です。
373系電車は、座席のひじ掛けにインアームテーブルが備え付けられており、仲間同士で座席を向かい合わせにしてもテーブルを使える“駅弁向き”の車両。
花火へ、海へ、のんびりローカル線の旅は、駅弁と一緒に楽しみたいものです。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/